スポーツと栄養の知識

 

 

平成17年に「食育基本法」が施行され、全国の学校などで食育運動が推進されています。しかし、その中身については評価の難しい「伝統」や「食料政策」なども同等に大切な問題として取り組むように書かれていることに多くの栄養士が疑問を投げかけています。一番は子供の健やかな成長に必要うな科学的、栄養学的な知識を踏まえた情報を伝えるべきです。

 

 

では、スポーツ選手になぜ食事が必要なのでしょうか?それは、トレーニングをしてきた技術や成果を得るためには基礎体力を持った身体が必要だからです。基礎体力をつけるには正確な運動(練習)と必要な栄養(食事)と正しい休養(睡眠)のバランスが大切です。

 

 

スポーツ指導者がここで栄養学の基礎を学ぶのはジュニア選手の健康的な成長や、スポーツ選手のコンディショニングに活かすためです。栄養については「ダイエット」「頭が良くなる」「成人病予防」に効くなどの不確実な情報が沢山流れていますので、惑わされない知識が必要です。

 

 

■五大栄養素の役割とは

 

3大栄養素とは、糖質(炭水化物)、脂質(脂肪)、タンパク質をさし、ミネラル(無機質)、ビタミンを加えて5大栄養素と呼びます。この5つの栄養素は生きていくうえには必ず必要なもので、5つともバランスよく摂ることが大切です。

 

 

糖質(炭水化物)
糖質は私達の最も大切なエネルギー源になり、血糖値を一定に保つために重要な働きをしています。
最も単純な構成の単糖類と、単糖類が2個結合した二糖類、単糖類がたくさん集まった多糖類とに分けられます。二糖類や多糖類は体内に入り、唾液中の消化液アミラーゼによって加水分解され、胃を通過するまでにさらに分解され、小腸で消化酵素により分解され単糖類になって吸収されます。小腸で吸収された単糖類は血液によって肝臓に運ばれ、ガラクトースと果糖はブドウ糖に変えられ、最終的に糖質は全てブドウ糖になります。

 

今直ぐ使われるブドウ糖は血糖として全身の血液に送られ、エネルギーとして使われます。余ったブドウ糖は肝臓や筋肉組織ででグリコーゲンとして蓄えられます。蓄えられたグリコーゲンは必要に応じてブドウ糖に戻され、エネルギーとなる訳ですが、グリコーゲンとして肝臓と筋肉に蓄えられるには量には限度があり、それ以上の糖質は体脂肪となります。しかし、マラソン選手などはグリコーゲンの蓄える量を最大限にするために「カーボローディング」という高糖質食を試合当日まで行います。

 

スポーツをしたり過労、低血糖等今直ぐ糖質が必要な時は、お菓子や果物の単糖類や二糖類の方が、分解され吸収される過程が少なくて済むので即効性がありますが、取りすぎると血糖値が急激に上がり糖尿病や高脂血庄の原因になります。

 

 

脂質
人間の身体の中で燃えて、からだを動かすエネルギーのもととなる栄養素の“脂質”。少量でたくさんのエネルギー(1g辺り9kcal)に変わる効率のよい栄養素です。脂質は糖質と共に人間が活動するのに必要なエネルギーを供給します。

 

1日の消費エネルギーのうち25%は脂質から摂取するのが望ましいとされていますが、近年は脂質の割合が高くなり健康への悪影響が心配されています。サラダ油、バター、ラード、牛や豚・魚の油脂等、ほとんどは中性脂肪として体内に入り、脂肪酸とグリセロール(グリセリン)に分解されます。エネルギー源として使われるのは脂肪酸の方ですが、使われなかった脂質は体内に蓄積されて体脂肪となり肥満の原因になるので、取りすぎに注意しましょう。脂質を燃焼させるにはビタミンB2の助けが必要です。ちなみに糖質を燃焼させるにはビタミンB1、体脂肪燃焼にはビタミン1、2、6、12の4種類が必要になります。

 

脂肪酸には構成する脂肪酸の種類によって、大別すると飽和脂肪酸と不飽和脂肪酸2種類の脂肪酸があります。飽和脂肪酸には、パルミチン酸やステアリン酸などの種類があり、牛肉、バター、ヤシ油など動物性油脂に含まれ、これらの飽和脂肪酸を多く含む油脂は常温(20℃位)で固体となります。
不飽和脂肪酸はさらに、一価(単価)不飽和脂肪酸と、多価不飽和脂肪酸とに分けられます。一価不飽和脂肪酸の代表はオレイン酸で、動植物油脂に多く含まれています。多価不飽和脂肪酸のうち、のリノール酸、リノレン酸は植物油に多く含まれており、EPA(エイコサペンタエン酸)、DHA(ドコサヘキサエン酸)などは、魚油中(特に背の青い魚)に多く含まれています。これらの不飽和脂肪酸を多く含む油脂は、常温で液体となります。このように、脂肪酸にはいろいろな種類があり、性質も異なります。

 

 

タンパク質
人間の身体の多くは水分で構成されていますが、タンパク質は水分に次ぎ人体構成の17%くらいで、皮膚や髪、血液、爪、筋肉、内臓はタンパク質で作られています。そして体のバランスを保つ為のホルモンや、栄養素の体内合成を助ける酵素も蛋白質で作られています。

 

また、病気に対する免疫力を作る働きもあります。人間の主なエネルギー源は、糖質と脂質ですが、蛋白質もエネルギー源にもなり、一日の消費エネルギーのうち15%は蛋白質から摂取するのが望ましいとされています。

 

タンパク質はアミノ酸でできています。また、人間の体も20種類のアミノ酸で構成されています。人間の体内では11種類のアミノ酸を作り出すことができるのですが、9種類のアミノ酸は作り出すことができず、食品から摂取しなければなりません。

 

体内で作られるアミノ酸を非必須アミノ酸、体内で作れないアミノ酸を必須アミノ酸と言い、どのアミノ酸が不足しても筋肉や血液、骨などの合成ができなくなってしまうとされています。タンパク質を構成するアミノ酸は食品によって異なっています。そのため、食品からの摂取が必要である必須アミノ酸をバランス良く含んでいるタンパク質の摂取が望ましいでしょう。

 

タンパク質に含まれている必須アミノ酸のバランスは、アミノ酸スコアで知ることができます。アミノ酸スコアとは、タンパク質に含まれる9種類の必須アミノ酸のバランスを数値化したものであり、アミノ酸スコアが100の食品は、必須アミノ酸をバランス良く含む食品であると言えます。

 

9種類の必須アミノ酸のうち、1種類でも不足していると有効に活用されないため、アミノ酸スコアは0となります。そこで不足しているアミノ酸を他の食品で補います。アミノ酸の摂取はバランスがとても大切なのです。一般成人では1日のタンパク質摂取量は体重の約1000分の1が望ましく、50sの人は1日50gとなり、動物性と植物性を25gずつ摂取するのが理想的ですが、運動強度によりタンパク質の摂取量は増えていきます。特に筋トレ後の筋肉修復には必要不可欠です。  

 

 

ビタミン
ビタミンはからだの中でつくることもできますが、それでは足りないので、食事から摂取しなければなりません。エネルギーをつくったり、からだを守ったり、他の栄養素の働きを手助けする役割があります。ビタミンは13種類ありますが、中でも成長や発育の過程で大切なものとして、ビタミンA、ビタミンB1、ビタミンB2、ビタミンC、ビタミンDがあげられます。

 

ビタミンの二つの性質(水溶性と脂溶性)
ビタミンには水に溶ける「水溶性」と、脂に溶ける「脂溶性」とが有ります。水溶性ビタミンはB群とCで、取りすぎても尿に溶け、体外に排泄されますので毎日こまめに取ります。水に溶けやすいので調理中に壊れる場合も少なくありません。

 

摂取目安としては、摂取エネルギー1000kcalに対してビタミンB1は0.5r、ビタミンB2は0.6rです。ビタミンCは200r程度です。脂溶性ビタミンはA、D、E、Kで必要以上に摂取すると体内蓄積される為、過剰症になり障害が起こる場合もありますが、普通の食生活では心配有りません。しかし、サプリメントを常用している人などは摂取量に注意が必要です。脂溶性ビタミンは油で調理したり、脂肪と一緒に取ると吸収がよくなります。 

 

 

ミネラル
ミネラル(無機質)は人間の身体を構成する物のうち4%と言う微量ですが、からだの中でつくることができないので、食事から摂取しなければなりません。人間が必要とするミネラルは大きく分けて、1日あたりの必要量が100r以上のマクロミネラルと1日あたりの必要量が100r未満のミクロミネラルがあります。

 

【マクロミネラル】
カルシウム:骨と歯の主成分であるほか、筋肉の収縮や体内の情報伝達、酵素の活性化など
リン:エネルギー源となる化合物や、情報伝達の際のスイッチとして必要
カリウム:体液の浸透圧維持や、神経刺激伝達に必要
ナトリウム:体液の浸透圧維持や、神経刺激伝達、グルコースやリンの輸送機能調節
塩素:体液の電解質平衡や、炭酸水素イオンの輸送に関与
マグネシウム:糖代謝における補因子、たんぱく質の活性化に関与

 

 【ミクロミネラル】
鉄:ヘモグロビン鉄として血中酸素の運搬やミオグロビン鉄として筋肉の酸素利用に重要
マンガン:生体内の解毒機構に必要な酵素の補因子
銅:生体内の解毒機構に必要な酵素などの補因子
ヨウ素:甲状腺ホルモンの構成成分
モリブデン:キサンチンオキシダーゼなどの代謝酵素の補因子
セレン:生体内の解毒機構に必要な酵素の補因子
亜鉛:インスリンの構成成分であり、免疫機能や味覚に関与
コバルト:ビタミンB12の構成成分として重要
フッ素:骨や歯の構造強化に関与
クロム:インスリンの作用増強や成長促進に関与

 

 

■活動時の栄養素等摂取量とは

 

 

アスリートのベストコンディションを保つためにはエネルギー消費量とエネルギー摂取量のバランスが必要です。アスリートの1日のエネルギー消費量は[1日に必要なエネルギー=基礎代謝量(28.5×除脂肪体重)×身体活動レベル]の計算式で出てきますが、エネルギー必要量はさまざまな条件により変動があるので、毎日同じ条件(できれば朝の同じ時間)に体重もしくは体脂肪率の増減で摂取エネルギー量を調整することが求められます。

 

 

■アスリートの栄養アセスメントとは

 

 

アスリートは競技種目やトレーニング時期などにより栄養の状況は個別で大きく異なります。そのために個人の栄養状態を主観的・客観的に判断するために、身体計測、生化学データ、臨床診査、栄養摂取状況、身体活動量推定などで栄養アセスメントを行う必要があります。

 

 

■トレーニングと食事について

 

 

アスリートは年間スケジュールの中でシーズンによりエネルギー消費量は変わります。ハードなトレーニング期間などは摂取エネルギーが足りなくなると、疲労の蓄積で故障や障害でコンデションを崩す可能性があります。1日のエネルギー消費量は、生命を維持するための「基礎代謝(60〜70%)」食事でも使われる「食事誘発性熱産生(DIT反応)(10%)」運動で消費する「活動時代謝量(20〜30%)」 の3つがあります。 基礎代謝の一般的な数値は、成人男性で1日1200〜1600kcal程度、成人女性で1000kcal〜1300kcal程度です。アスリートの基礎代謝はこれより多くなりますので、栄養アセスメントにより摂取エネルギーの調整が必要です。

 

 

■スポーツをする人の基本的な食事のしかた

 

 

アスリートの食事は必要なエネルギー量と各栄養素を過不足なく含んだものが「バランスの良い食事」といわれます。基本的には「主食、主菜、副菜、汁物、牛乳、果物」が揃い、栄養アセスメントで得た情報で、食品群の中から質と量を検討し栄養密度の高い食事にします。

 

 

■水分摂取の重要性とその摂取方法とは

 

 

成人男性60kの体液量は体重の約60%(36kg)その内、細胞内液40%(24Kg)細胞外液20%(12Kg)なります。この水の作用としてひとつは物を溶かす力、すなわち溶解作用です。水を飲むことで水分はもちろん、栄養分を体内の隅々に補給し、身体に吸収することができます。食べ物は水を媒介にして体内で吸収しやすい栄養素になり、全身を巡る血液に取り込まれ、体中の組織に運ばれます。また、同時に老廃物の排泄などの運搬作用もあり、血液の元になっているのが水です。

 

ふたつめは温まりにくく、冷めにくい性質です。気温が大きく変化しても人間は一定の体温を保つことができるのは、身体に水が多く含まれているためです。また、暑いときは体内の水分を汗として出し、汗の蒸発により皮膚は熱を奪われ、体温の上昇を防ぎます。運動中の水分補給が必要なのも発熱によって失われた水分の補給のためです。水分の損失率が2%を超えると脱水諸症状が表れ、熱中症になりやすく警戒が必要です。

 

 

■水分補給の目安とは

 

1.環境条件によって変化しますが、発汗による体重減少の70〜80%の補給を目標とします。 気温の高い時には15〜20分ごとに飲水休憩をとることによって、体温の上昇が 抑えられます。1回200〜250mlの水分を1時間に2〜4回に分けて補給してください。
2.水の温度は5〜15℃が望ましいです。
3.食塩(0.1〜0.2%)と糖分を含んだものが有効です。運動量が多いほど糖分を増やしてエネルギーを 補給しましょう。特に1時間以上の運動をする場合には、4〜8%程度の糖分を含んだものが疲労の予防に役立ちます。
(日本体育協会HP   スポーツ医・科学研究 熱中症を防ごうより)

 


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