■選手を育てるコーチに必要なこと
 

 

 

テニスコーチが生まれて半世紀が過ぎ、創生期から発展期、成熟期と進んできています。この50年の間にテニスを含むスポーツ界は社会情勢によって大きく変化しました。

 

 

高度成長期のスポーツ界は、大企業が実業団チームを持ち、スポーツ選手やコーチをサポートして各競技団体を支えてきました。経済が良好の時は会社にも余裕があり、広告宣伝費などを活用して幅広く支援を行っていました。

 

 

現在は、長いデフレから完全には脱却できず社会全体が閉塞感を感じています。テニス界で衝撃が走ったのは実業団トップリーグで優勝をしたチームの祝勝会での廃部の発表です。スポーツ界全体としてはIT企業などが台頭して何とか形は整っていますが安定しているとは言えません。

 

 

ノーベル賞を受賞された大隅先生はじめ歴代受賞者の方々が、国に対して基礎研究に予算をお願いしていたように地道な研究で成果を上げるには、長い時間と研究者育成のためにそれなりの生活の基盤と組織の理解が必要なのです。

 

 

テニス事業からすると、社員を少なくしてアルバイトでレッスンを埋めていくやり方が利益率を上げている現状があります。当然、コーチは分業制のように決まったレッスンしか見なくなるケースが多くなります。

 

 

良いテニスコーチを育てたいならば正社員で雇用し、生活基盤を安定させて責任を持たせる。ジュニアを初心者から思春期後まで持ち上がりで指導させることが必要なのです。あくまでも、これまでの経験と学んだことを基に考えた理想的な状況です。

 

 

有名な中高一貫の進学校では、担任団を結成して6年間同じ先生が指導にあたります。生徒1人ひとりの成長時期がずれても6年間の時間の中でしっかり指導するという学校の方針で成果が上がっています。

 

 

これは進学校の話ですが、生徒を成長させるためにどうすればいいのか真剣に向き合った結果であり、選手指導についても参考になる考え方の一つです。

 

 

我々が育ってきた環境はパソコンも普及していない、現在よりも情報も少なく何かを調べるにも時間と労力がかかりました。しかし、会社が研修会や講習会に参加する場合など費用の一部を負担して情報を社員同士で共通理解する時代でもあります。そのような時代背景の中で工夫・発想・経験という財産を手に入れたのです。

 

 

テニス界が発展していくためには、第二、第三の伊達選手や錦織選手が必要なのです。そのような選手を輩出するにはホームコーチの存在が不可欠なのです。ホームコーチは地域に根を張った存在です。そこに通うジュニアの中から新しい選手が出てくるのですが、ホームコーチの忘れ物をさせない指導が未来のチャンピオンの可能性を引き上げるのです。

 

 

ホームコーチのレベルアップが重要課題なのは日本体育協会、JOCが一貫指導要綱を各競技団体に作成させていることで分かります。一貫指導システムを立ち上げ、低年齢からの指導を重視して年齢のカテゴリーが上がっても、コーチが変わっても円滑に成長させたいと考えているのは理解できます。

 

 

テニスにおいては、ビジネス的構造が確立しているばかりに、コーチが継続的に選手に関われない環境を生み出しています。マイナー競技ほど選手と指導者の関係が深く自立するまで同じ指導者に教わるケースが多くみられます。

 

 

テニススクールの大型化は普及の面では貢献度は高く、現在のテニス界を牽引しています。しかしながら選手育成は経営的にはマイナスであることで、積極的には進められていません。もちろん、大手スクールでもジュニア強化を進めているところもありますが、全体的には僅かしかありません。

 

 

テニス指導の環境も変わる中、いかにいい選手を育てるかは、いかにいいコーチを育てるか、と同じ意味を持ちます。少しでも余裕のあるテニススクールには是非コーチの育つ環境を整備して、テニス界の発展に寄与して欲しいと願います。

 

 

良いコーチが育つ条件
 
1、正社員であること
  正社員だと長期にわたり取り組める環境を持てる。
 
2、ジュニアの初心者から選手になるまで見ること
  分からないものを教えることで、いろんな角度から見ることを覚える。
  選手の成長と共に数々のターニングポイントを知ることができる。
  一般の受講者を教えることが簡単に感じる。
 
3、基礎学習を徹底させること
  教えていることの裏付けが取れることで、コーチングに自信が持てる。
  様々な判断基準が正確になる。(いつ何をやればいいかなど)
  いろんな人の話が理解できるので考えの幅が広くなる。

 


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