テニスコーチの基本は謙虚さ
テニスコーチになれば、アルバイトコーチでも社員コーチでも、若手の間は一般のスクール生にかわいがってもらえますが、ここに落とし穴があるのです。キャリアが長くなれば実力が評価されますが、コーチになりたての頃は一般スクール生よりコーチの方が若いので、受講生の方がコーチを立ててくれているのです。
落とし穴というのは、謙虚さを失ってくることです。怖いのは本人が気づかないということです。「コーチ」と呼ばれ褒めていただき、少なからずレッスンが上達し、理由のない自信が湧いてくるのです。この時の何気ない行動や言動が礼儀を欠いてしまうと人間関係を壊してしまったり、自分自身の評価を落としてしまうのです。
現在、コーチを始めている人はこれを読んで14の兆候を自分に当てはめてみてください。もし、1個でもあれば注意が必要です。これからコーチを目指す人もこれをノートにでも書いて、兆候を見逃さないように自己管理して下さい。
■謙虚さがなくなる14の兆候
1. 時間に遅れだす
2. 約束を自分から破りだす
3. 挨拶が雑になりだす
4. 他人の批判や会社の批判をしだす
5. すぐに怒りだす ( 寛容さがなくなる )
6. 他人の話を上調子で聞きだす
7. 仕事に自信が出てきて勉強しなくなる
8. 物事の対応に緩慢になる
9. 理論派になりだす
10. 打算的になりだす ( 損得勘定にしがみつく )
11. 自分が偉く思えて他人が馬鹿に見えてくる
12. 目下の人に対してぞんざいになる
13. いいわけが多くなる
14.「ありがとうございます」という言葉が少なくなる ( 感謝がなくなる )
これは今野華都子先生がブログでお書きになったものですが、テニスコーチとして参考になると思い引用させていただきました。
選手を育てている場合に気をつけなければならないのは、低年齢の選手が成績を出したときです。例えば、県のチャンピオンになった、ジュニアチャンピオンになった時などに、自分が育てた気になってしまうことなのです。厳しい言い方かもしれませんが、その選手はたまたま自分のスクールに入っただけで、他のスクールに行ってもチャンピオンになっている可能性は高いということです。
選手を育てるコーチの条件として、チャンピオンという終点をつくらない、選手の可能性に目を向けた「まだまだと思える向上心」が必要なのです。これがチャンピオンを育てても謙虚さを失わない考え方です。日本人で世界ランキング1位になった選手はいないのです。
立つことがコーチの仕事
新入生の実技授業では最初に「コートでは座らないこと」を教えます。当たり前のように感じますが、コーチという職業はボールを打つ体力だけでなくコートに立ち続ける体力も必要なのです。テニススクールに就職すれば、一日中コートに入ることもよくあります。
高校の部活だけでテニスをしてきた学生には、部活の活動レベルにもよりますが、一日練習もそれほど多くなく、コートに立ち続けることにあまり慣れていないのです。実技授業でも座りたい場合は、コートの外に出て座るように注意します。その時は練習を見ながらストレッチなどをさせています。
1レッスン90分として、1日4レッスン、合計6時間コートに立つことはよくあることで、もっと多い日もあります。もちろんレッスンとレッスンの間に休憩ははさむと思いますが、それでも始まりの体操から、アップ、ドリル、ラリー、マッチなどを考えると体力が必要なことが分かります。
やはり、コーチが颯爽と立っている姿は生徒側からすると気持ちのいいものです。ラケットの持ち方や服装の規定があるスクールも数多くあります。サービス業としての心構えとしても大切なことです。テニスは姿勢が大事なスポーツでもあり、コーチが見本として普段から気をつけることでプレーも良くなります。
フィーディング(球出し)はバランスが命
立つことがコーチの仕事であると書きましたが、コーチになりたてのころは、レッスンを進める事や生徒を見ることが精一杯で、なかなか自分の姿勢まで気が回りません。
しかし、フィーディング(球出し)での立ち方は絶対注意が必要です。なぜなら、フィーディングは同じ姿勢でたくさんボールを打ち続けるので、バランスの悪い立ち方をしていると身体への負担が大きく故障の原因になるからです。
コーチになりたての頃なら、まだ体力もあり無理が効きますが、コーチを職業にするなら故障しないバランスの良い立ち方を身につけなければいけません。
もう一つバランスがフィーディングに必要なのはコントロールが良くなるからです。フィーディングの不安定なコーチを見ていると、身体が揺れていたり、どこか無駄な動きが見て取れます。できるだけ、頭の位置を動かさないで体幹をしっかりとした姿勢でフィードすることが必要です。
慣れてくると手元を見なくてもフィード出来るようになります。そうすると打つ人に注意を向けることができ、いいタイミングでアドバイスができます。これもバランスのおかげです。
身だしなみに気を付ける
テニススクールを受講する年齢は幅広く、幼稚園から仕事をリタイヤした年配の人たちまで様々です。さらに女性も多く、身だしなみには特に注意が必要です。
例えば、茶髪、ピアス、髭、ネイルなどは程度によってはスクールとして許可している場合もありますが、テニススクールをサービス業と考えれば、生徒に不快感を与える可能性のあるものは認められないのが普通です。
このようなことを、当たり前として捉えることができるかどうかが問題です。個人的な意見もあると思いますがテニスコーチを職業として生活していくのなら生徒目線で考えることが重要です。
コーチは朝出かける前に鏡を見て、今日出会う人たちに気持ち良く挨拶ができるような身だしなみになっているかを基準にセルフチェックをしてコートへ向かってください。
コートではテニスウェアですが、ボタンが取れていたり、ほつれや汚れ、チャックの破損などにも気を使ってください。最近ではにおいも重要なファクターです。香水など使うのではなく、汗をかいたレッスン後に着替えやシャワー、デオドラント商品を使用するなどにおいへの配慮は必要です。
一部では「スメハラ」などという言葉も出てくるほど、体臭、口臭、加齢臭など、においには敏感な時代です。喫煙者が減りタバコに接することがなくなってきた子どもたちは、タバコのにおいにも敏感ですので喫煙しているコーチは特に注意して下さい。
言葉づかいを気を付ける
身だしなみでも書きましたが、テニスは実行年齢層が広いスポーツの一つです。さらに、コーチは入社1年目でも先生と言われ、自分の立場を勘違いしてしまうこともよくあります。
そこで気を付けることは言葉づかいです。年齢に関係なく一般の生徒には敬語を使うことです。社会人として、たとえ生徒であってもお客様であるという視点を持つことが重要です。
やはり、地位の高い人ほど丁寧で優しく接してくれます。コーチになりたての頃は難しいですが、それに甘んじることなく、自分の立場をわきまえて謙虚な姿勢が大切です。
また、テニススクールにはジュニア部門も多く開講されています。このジュニアに対する態度、言葉づかいも注意して下さい。
ジュニアには年齢が下ということもあり、なかなかお客様という感覚にはなりづらいですが、コートの後ろや脇で見ている父兄は自分の子供の対応をしっかり見ています。
きちんと指導しているのはいいのですが、つい熱くなって乱暴な言葉や、馬鹿にするような言葉が出てしまうこともよくあることです。
敬語は使わなくて構いませんが、丁寧な言葉と優しい口調が必要です。自分の感覚で大丈夫と思っていても、ジュニアにすれば傷つく言葉かもしれないからです。
新聞を読むこと
最近は新聞を取らない人たちが増えています。我々の頃には信じられないような社会的変化です。アルバイトや新人のコーチには、よく新聞だけは読んでおくようにと言っていました。年齢層に幅があり、主婦も多い業種ですので学生の頃とは違い、会話の内容も広さも違ってくるのは当然のことです。
ある程度の一般社会の常識や、知識がないと大人との会話には不都合が出てきます。テニスは年齢だけでなく、職業、地位、地域、経験年数など様々な条件の違う人たちがたくさんいます。その人たちに少しでも対応する能力をつけてくれるのが新聞なのです。
絶対に新聞を取れとは言いませんが、タブレットやスマホからでも新聞のアプリを入れて毎日読むことは必要不可欠です。テニスのコーチも社会人の一人だという自覚と認識を持ってください。
相手を理解するには相手との会話が必要です。そのときに相手の言っていることが分からなければ理解できません。分からないことは聞けばいいのですが、自分にも理解する能力が必要なのです。
お互いが理解しあえることがベストですが、ひよこコーチは一歩一歩謙虚に勉強していくという心構えが大切なのです。その謙虚な姿勢が生徒に受け入れられ、将来の成長につながるのです。
スクールにある用具をすべて把握する
ひよこコーチの仕事に用具の準備があります。レッスンに入る前に必要なものを揃えます。スクールによってはボールをドリル用、ラリー用と分けていたり、レッドボールやグリーンボールを使う場合もあります。それぞれのレッスンの目的に合わせてボールかごやカートを用意します。
コーンもレッスンのメニューにより大きいコーンや小さいコーン、色つきのコーンなどいろいろあります。もちろんターゲットとしての役割であったり、ポジションのマーカーとして使いますが、生徒同士がぶつからないように分ける安全管理にも必要になります。
その他にも小さいネットの配置や仕切りカーテンの開け閉めなど、レッスン中に変えなければならないこともよくあることです。レッスンの流れを読んで、いつ変更を言われてもすぐに動かせるように気をつけておきます。
ジュニアのレッスンなどはラダーやトランポリン、ミニハードルやメディシンボールなどさまざまな用具を使います。また、ジュニアレッスンなどは、生徒と一緒に準備することや片づけもカリキュラムに入ることもあります。
このように、テニススクールのレッスンに応じた備品用具の使い方や配置などすべて理由があります。早く覚えてレッスンがスムーズに進められることが仕事です。
準備体操(ウォーミングアップ)と整理体操(クールダウン)
レッスンの始まりには必ず準備体操やアップをしなければなりません。これはスクールが入っている保険に関係してきます。もし、準備体操やアップをせずにレッスン中にけがをした場合など保険が下りずにスクール側が保証しなければならない場合があるからです。
では、ウォーミングアップをすると何が良いのか?まず第一は体温が上がることです。体温が上がると血流も増えて筋肉も暖まります。筋肉が温まると筋肉は柔らかく伸びやすくなるので傷害予防に役立つのです。
血流が増えて良いことは身体だけではなく、心拍数が上がるということで気持ちも上がり緊張もほぐしてくれます。気をつけることは、気温が低い冬などは少し長めのウォーミングアップをすることと、すぐに冷えないようにウォームアップを着ることです。これで、心と身体の準備ができました。
ひよこコーチの仕事としてウォーミングアップをしっかり行うことはもちろんですが、もう一つやらなければならないことがあります。それは、このウォーミングアップ中に生徒の様子の確認をすることです。どこかかばっているところはないか、体調のすぐれない感じはないかなどレッスンに入る前に必ず確認することです。
レッスンが終わりになると、今度は整理体操(クールダウン)を行います。スクールによってはやらない場合もありますが、生徒の肉体的、精神的な緊張をほぐしておくことは、早く疲労を回復することに繋がります。ストレッチでは、練習でよく使った箇所を特にしっかり伸ばしてください。
フィーディングで生徒を変える
「フィーディングはバランスが命」から、もっと詳しく実践で使うコツを解説します。フィーディングには手出し(ハンドフィーディング)とラケット出し(ラケットフィーディング)があります。どちらもドリルを行う場合に必要なテクニックです。
呼び名もいろいろあります。トス出し、球出し、ボール出し、球送りなどですが、テニス指導の資格試験ではフィーディングと言われていますのでこれを使います。
フィーディングで基本的な考え方は、初心者・初級は生徒に合わせる、中級・上級は生徒を追い込む、選手コースは生徒をだますことです。
ひよこコーチはまず、生徒に合わせることから始めます。さて、生徒に合わせるとはどのようなことでしょうか?これが分からないコーチのフィードボールは生徒が打ちにくさを感じてしまいます。
答えは、「生徒の振ってくるスイングのインパクトにボールをフィードする」ことです。つまり、初心者・初級者は振ることだけで精一杯で、ボールに合わせることは難しいのです。そこでコーチは、生徒のスイングの軌道を予測し、振ってくるタイミングを計り、インパクトの高さを見極めてフィードするのです。これが、相手に合わせるという意味です。
もう一つ、生徒が打ちにくさを感じることがあります。それはコーチの立ち位置です。
コーチの安全にも関係しますが、生徒が打つボールがコーチに当たりそうなところは、生徒が危険を感じて集中力が削がれてしまいます。生徒の打つコース、スイングが当たりそうなところからはボールをフィードしないようにすることです。ネットを挟んでストロークのフィードの場合は生徒も安心して打つことができます。
ラリーで生徒を変える
フィーデングも生徒は変えることができますが、ラリーでも変えることができます。フィーディングでのポイントはそのまま使い「生徒の振ってくるスイングのインパクトにボールを送る」つまり、生徒のスイングの軌道を予測し、振ってくるタイミングを計り、インパクトの高さを見極めてラリーするのです。
ショートラリーから始まると思いますが、ショートラリーでリズム・タイミング・バランスを合わせるように打ちます。ここで、ラリーのポイントととして息を合わせることが必要です。もちろんスモールステップのフットワークリズムやテークバックのタイミングなどは気をつけますが、「息を合わす」ことで全体のバランスが取れてきます。
ロングラリーで初心者・初級者が難しいのはボールの距離感です。相手のボールがどこに落ちてどこまで飛んでくるのか予測が合わないのです。つまり、長い距離のボールはどこまで飛んできて、どこに落ちてどれぐらい跳ねるのかなどの情報を得るようには見ていないので、結果、思い通り動けずボールに近すぎたり、遠すぎたりするのです。
そこで、コーチのラリーテクニックは「相手が思っているボールの弾道とバウンドの早さで打つこと」です。初めは分からないと思いますが、相手の動きだし、テークバックのタイミング、スイングの早さなどを見ればだんだん相手の思い描いてるボールのタイミングが分かってくるのです。それぐらい相手の動作や気持ちをくみ取ることが必要なのです。
「コーチとラリーするとすごく続くので楽しい」と言われるようになれば第一段階は成功です。次は、相手の思っているより少しだけ強く、少しだけ早く打つことでボールの変化に対応できるようにしていくことでラリー力がついてきます。段階的に早く・広く・深くなどの幅を拡げてラリーを行います。
ただし、ミスをしないぎりぎりのボールを続けることはコーチ自身がしっかりボールを捉えて準備を早くしてなければコントロールができません。コーチは相手に見られていることも理解して、バランスよくスイングして正しい(合理的な)打ち方で、正しい動きをすることが大切です。