臨床実験:パフォーマンスを上げるためのウォーミングアップを探る
【目的】
どのスポーツにも共通してウォーミングアップ(以下W-UP)は行われている。どのようなW-UPをすれば高いパフォーマンスを発揮できる準備が出来るのか実験する。W-UPの種類ごとにデータを取り、効果を検証した。
【方法】
専門学校テニスコースの生徒複数名を対象に、W-UP終了後ブレインアスリート(Brain Athlete)という機器を使用し脳波を測定する。測定回数は、3種類のW-UPを1人10回ずつ実施した。
Brain Athleteで測定可能な脳波は[α波・β波]の2つであり、0〜99までに数値化されている。2つの波とも70を越えている状態を『ゾーン』と設定している。
スポーツ心理学において、適度の疲労と集中力が極限まで高められ、周囲の景色や音が意識から消える状態のことをゾーンと表現する。この状態に近づいて試合に臨めば、良いスタートが切れるのではないかと仮定した。
ゾーン状態にあるとき、「α波」(リラックス)と「β波」(集中)という比較的波長の長い脳波が出力されている。この条件のもとに実験を行った。
【結果及び考察】
下図はW-UPを行った後、脳波を計測し、実験者全員の計測値の平均をとったものである。
今回の実験では試合前の短い時間でも行えるW-UPを条件とし、ゾーン率の平均値が高いものが実用的であるとして考察した。
この実験は同日に3種目の計測を複数回していたので、計測が終わるたびに休憩を取り、再度W-UPを行い脳波を計測した。(各測定10回×5人の平均値)
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集中度 |
リラックス |
ゾーン率 |
1 |
ダッシュ |
55.7 |
57.2 |
45.4 |
2 |
3分間ラリー |
48.5 |
61.7 |
45.3 |
3 |
腹筋20回 |
54.0 |
52.4 |
43.9 |
4 |
w-upなし |
40.3 |
49.7 |
35.3 |
@ダッシュ
全力でダッシュすることにより心拍数が上がるので適度な疲労によってゾーン状態に近づきやすい状況が作り出せるのではないかと考えて行った。
A3分間ラリー
中等度の強度の運動を3分間続けることによって比較的集中力は高まるが、ラリーは普段から練習量が多いため余計な力が入ることなくリラックスできていた。
B腹筋20回
腹筋は可能な限り速く行った。運動強度は高めだが、疲労が溜まりすぎてしまうため、リラックスの数値が低かった。何度も行えるようなW-UPではなかった。
CW-UP無し
今回の実験の目安とするためにも行ったが、最も低い数値であった。
実験結果は、日程、天候、体調、気温により数値も変動した。また、測定日の後半になるにつれて、パフォーマンスが高くなるため、絶対必要な種目はなかった。
【まとめ】
現在、さまざまなw-upが行われているが、今回の実験結果としてはスピード系のW-UPがゾーンに入りやすい状況を作り出せた。
しかし、今回の実験の1番良い結果でもなかなか目標であった60以上の数値は出ず、トップ選手のように心理状態を維持することの難しさが数字的に分かった。
また、数値から見ると個々に適したW-UP方法が違ったり、天候や計測日によって何通りも違う数値が計測された。1日に複数回の実験を行ったが、最後にスピード系のW-UPをすると数値が上がった。
これらのことから、試合前にはどのような種類、組み合わせ、強度、時間でW-UPを行うかは、個々に考え個々に合ったものを作り出さなければならない。
コーチとして忘れてならないのは、W-UP無が最低値ということ。選手には必ず何らかのW-UPをさせることが絶対条件である。
余談になるが、今回は試合前の設定なので身体を使った測定だけを出しているが「ボール乗せ」という、机の上でボールの上にもう一つボールを乗せる実験も並行して行った。
結果は「ボール乗せ」がゾーン率49.64と最高値を挙げていた。勉強などの集中には効果があるかもしれないので実験が出来れば行いたい。