発育発達期の身体的特徴の知識

 

 

スポーツ指導者がジュニア育成に係わるときには、子供の成長過程と身体に何がおきているのかを知ることで効果的な練習を行うことができます。やるべき時期にやるべきことを間違わなければ将来の選手としての準備が出来るのです。

 

 

各種競技の指導者テキストにも載っている「スキャモンの発育曲線」これを理解してなければ効果的なジュニアの指導はできません。なぜなら、子どもが成長していく過程では器官や機能がまちまちの発達をしていきますので、ある課題に対しても、吸収しやすい時期としにくい時期が出てきます。その、まちまちな発達を表したのがスキャモンなのです。

 

 

具体例としては、テニススクールのジュニアカリキュラムがあります。小学生低学年には神経系を使うボールとラケットを使った遊びやラダーなどのコーディネーションが多く取りいられています。小学生高学年になると、心肺機能を発達させるように、たくさん走るドリルや続けるラリー練習などが増えてきます。つまり、カリキュラムの練習内容はスキャモンの発育曲線の特徴に合わせているといえます。

 

 

スキャモンは子供の発達の様子を、出生時からスタートして20歳を100%とした成長度合を示しました。年齢による増減を、一般型・リンパ系型・神経型・生殖型の4つの曲線で表しています。

 

 

しかし、子どもは個々によって学習能力・発育速度には差があるので、年齢に依存し過ぎてはいけません。スキャモンの発育曲線はあくまで一つの大枠の考え方としてとらえ、こだわり過ぎれば逆に子供の可能性の妨げになってしまうかもしれないという事をしっかり理解してください。
 
 
■スキャモン発育曲線の型と特徴とは
 
 
■一般型
一般型は身長・体重や肝臓、腎臓などの胸腹部臓器の発育を示します。特徴は乳幼児期まで急速に発達し、その後は次第に穏やかになり、二次性徴が出現し始める思春期に再び急激に発達します。思春期以降に再び発育のスパートがみられ大人のレベルに達します。

 

■神経系型
器用さやリズム感を担う神経系の発達は脳の重量や頭囲で計ります。出生直後から急激に発達し、4〜5歳までには成人の80%程度(6歳で90%)にも達します。

 

■リンパ系型
リンパ系型は免疫力を向上させ扁桃、リンパ節などのリンパ組織の発達です。生後から12〜13 歳までにかけて急激に成長し、大人のレベルを超えますが、思春期過ぎから大人のレベルに戻ります。

 

■生殖器系型
生殖器系型は男児の陰茎・睾丸、女児の卵巣・子宮などの発育です。小学校前半までは、わずかに成長するだけですが、14 歳あたりから急激に発達します。生殖器系の発達で男子ホルモンや女性ホルモンなどの性ホルモンの分泌も多くなります。

 

 

■身長の発育とは

 

 

ジュニア指導で観るべきところの1つは身長の発育です。身長は第1発育急進期と第2次発育急進期がありますが、第1急進期は一番身長が伸びる出生時から乳児期までを指します。第2急進期が、思春期の発育スパートと呼ばれ、子どもの身体から大人の身体に変化していく時期に重なります

 

 

第2急進期の身長発達速度ピーク年齢をPHV年齢と呼び、スポーツ指導者としては注意が必要です。なぜなら、身長が伸びるということは骨が伸びていることです。つまり成長中の柔らかい骨であり、使い過ぎになると障害をおこす可能性が高くなります。

 

 

具体的には「オスグッド」「ジャンパー膝」「シンスプリント」などが挙げられますが、骨の骨端・成長軟骨が柔らかいために起こる障害と、骨の成長スピードより筋肉や腱の成長スピードが遅いことによる、常に筋肉や腱が引っ張られている状態に過剰な負荷がかかることに原因があります。

 

 

指導者は子どもの身長が伸びてきたと感じた時は練習の強度や回数を気を付ける必要があります。痛みが出た時の対処やケアーをしっかり行い、障害になる前に予防する意識が大切です。子どもは楽しいと痛みも忘れて頑張るので、いつも目配りをして練習後にはストレッチ・アイシングなどを教えていくのも指導者の役割です。

 

 

■筋と筋力の発達とは

 

 

体重が増えるということは、筋肉や骨が成長することともいえます。筋肉と骨の成長には性ホルモンの影響が強く、10歳ぐらいまでは男性ホルモン・女性ホルモンとも分泌量は同じ程度で、男女の体重も差がありません。しかし、PHV年齢付近(思春期頃)には男子・女子ともに男性ホルモンの分泌が多くなりますが、男子の男性ホルモン分泌量のほうが女子より多くなります。

 

 

男子はこの時期に睾丸や副腎皮質からでる男性ホルモン(アンドロゲン)には筋肉と骨の元になるたんぱく質の合成を促進する効果が高いので、思春期ごろから筋肉質の男らしい体つきになるのです。筋肉の発育とともに運動能力も上がります。

 

 

筋肉は筋線維が集まってできていますが、この中に2種類の筋線維があります。1つは速筋線維(FT線維)と呼ばれ大きな力を出せるが疲労しやすい筋肉、もう一つは遅筋線維(ST線維)と呼ばれる出せる力は弱いが疲労しにくい性質があります。この2つの筋線維の数と割合は生まれた時からは変わらないと言われています。

 

 

思春期発育スパート以前には遅筋線維が緩やかに発達し、発育スパート後には遅筋線維の発達に加えて速筋線維の発達が急速に行われます。これにより瞬発力が高まり、すばやい動きが出来るようになり運動能力が上がります。

 

 

体重30Kgぐらいまでの筋肉の割合は男女とも変わりません。しかし、思春期を過ぎたころの体重の増加は男子では増えた体重の80%程度が筋重量になります。女子は増えた体重の40%程度が筋重量で、脂肪の増加がみられます。これは、女性ホルモンの分泌が筋肉の発達を抑制する働きがあり、おもに速筋線維に影響を与えると考えられています。

 

 

■体重の発育とは

 

 

体重も身長と同じ傾向で増えていきますが、PHV年齢付近では男子1cmに対して800g、女子1cmに対して700gの増加が平均です。それ以上に増えている時はローレル指数(子供の肥満率)を計り、体重の増加が体脂肪の場合は栄養のチェックをして改善させます。なぜなら、ローレル指数で肥満のカテゴリーに入ると運動のパフォーマンスが下がるという研究報告があるからです。

 

 

■最大酸素摂取量の発達とは

 

 

第2発育急進期に同じくして最大酸素摂取量が急速に発達していきます。この時期は骨や筋肉、臓器などが発達しますので、心肺機能である肺や心臓も大きくなります。血液をたくさん受け入れることができれば最大酸素摂取量が多くなるということです。

 

 

PHV年齢期に負荷をかける運動を行えば、全身に酸素供給のため心臓の左心室拡張末期内径が大きくなります。また、有酸素系の運動では左心室内径が大きくなり血液をたくさん拍出できますが、無酸素系の運動では左心室後壁厚が厚くなり、血液の拍出力を上げて末梢まで送ります。

 

 

■神経系の発達とは

 

 

神経系は脳の神経細胞が増えることで発達します。神経過増殖という神経細胞が過剰に作られる現象が現れます。1回目の脳の発達は新生児から3歳頃までに脳全体に起こり、2回目は思春期にも過剰増殖がありますが、この時は頭頂葉・側頭葉・前頭葉の一部に生じます。

 

 

筋肉などから活動の刺激を受けると、脳に情報が送られ、神経細胞が働き、シナプス(連結部)から情報伝達物質を介して他の神経細胞情報を送ります。刺激を受ける回数が多いほどシナプスの数が増し、神経回路が密に繋がって働くようになります。これが「脳が発達する」ということです。使われない神経回路はシナプスの退行化がおこります。

 

 

運動にかかわる大脳皮質としては運動野・運動前野・補足運動野・体性感覚野などがあります。発達の順序としては運動野・補足運動野が早く、運動前野は少し遅れて発達します。そこから運動に必要なさまざまな命令が伝達されます。

 

 

しかし、その運動制御を行っているのは小脳です。運動制御とはさまざまなレベルの運動を全体的に目的に適するように動作させることです。つまり、10歳頃までに小脳に技術を覚えさせると細かい調整も含まれるので一度できたものは忘れません。自転車やピアノなどがその例です。

 

 

幼児期から10歳ぐらいまでに五感(視覚・聴覚・味覚・臭覚・触覚)や神経・筋コントロール能力が向上します。重さの弁別能力は9歳までの発達が著しく、単純反応時間・全身反応時間・選択反応時間なども5〜6歳から12歳にかけて速くなります。この時期に行うトレーニングの質を考えるのが指導者の役割の1つです。

 

 

これらの反応が速くなるのは、脳のネットワークが必要なもの以外淘汰され成人型に変わる(軸索が髄鞘に覆われること)と情報伝達が速くなるからです。逆に脳のネットワークが過剰増殖している3歳ごろや12歳ごろには、情報が脳のネットワーク上で錯綜してしまいます。自分では制御できない態度や言動を起こすことがありますが、それが一般的に言われる反抗期の原因です。

 

 

指導者は反抗期に入った子どもには、ネットワークが整うまでの時間を理解して接することが必要です。脳は成長している時なので、指導者の言動や態度などは子どもに記憶されていきます。感情で行動することはマイナスに働くことが考えられます。

 

 

■分かりにくい関係の言葉
 
 
思春期・第二次性徴(第2次発育急進期)・思春期発育スパート・PHV年齢
 
思春期は、性ホルモンの分泌が始まって、身体の変化がおこり急激な成長速度が高まり、生殖能力を持ち成長が止まり大人になるまでの期間のこと。
 
第二次性徴は思春期の身体の変化のことを指します。
 
思春期発育スパートは身体の急激な成長速度の上昇のことを指します。
 
PHV年齢は思春期発育スパートと重なりますが、身長発育ピーク年齢のことを指しています。
つまり、思春期の中にすべて含まれていますが、思春期=第二次性徴、思春期発育スパート=PHV年齢として使うことがよくあります。時期的には間違いではありませんが内容は少し違います。

 

 

ジュニアの指導者は思春期に入る時期を掴んでおかなければなりません。10歳ぐらいまでは男女区別なく指導しても身体的にも精神的にも問題はありませんが、思春期になると男女間では大きな差が生まれます。身体的には筋力差が大きくなり指導内容も変わります。精神的には反抗期や恥じらい、自己主張などが始まり接し方も変える必要が出てくるからです。

 

 

思春期の目安は、女子については乳房のふくらみが思春期の始まりになります。男子は分かりにくいですが精巣が4mlになったときです。一般的には思春期に入る平均年齢は女子9歳9か月、男子11歳6か月といわれています。成人身長になるにはそこから女子は3〜4年、男子は4〜5年かかりますが、個人差が大きいのもこの時期です。

 


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