発育発達期の心理的特徴の知識

 

 

子どもの成長のひとつである心の発達を知ることで、指導者は子どもに対する行動の理解や接し方、指導方法が変わる可能性があります。心の発達は、自分が子供のころの記憶がすべて残っていれば分かるることも多いのかもしれません。しかし、残念ながらその記憶はわずかしかなく、それも断片的なものだけです。子育てを終えた年代の方は、自分の子育てを通して理解できることがあるかもしれません。

 

 

まずは幼児期から児童期、青年期の心理的特徴から見ていきます。幼児期とは離乳期以降5〜6歳頃までのことで、1〜3歳頃、3〜6歳頃の前期と後期に分かれます。児童期とは主に小学生の認識で、低学年、高学年で前期と後期に分かれます。青年期は小学生高学年も少し入りますが、主に中学生以降二十歳までを指します。

 

 

■幼児期・児童期・青年期の心理的特徴とは

 

 

期分けはしていますが、いろいろな文献や資料を調べても、発育発達期に関してのデータは個人差が大きくなっています。指導現場では年齢は参考程度で取り入れ、成長の過程を見ながら柔軟に対応することが望まれます。

 

 

幼児期の特徴は情緒性が中心、つまり感情が行動を支配しています。(理屈で話しても分からないということ)また、自分と他人の立場の区別ができないなどの自己中心的性格を持ち、物事を具体的、直感的にとらえる具体性(相手のことは関係なく、自分のやりたいことをやること)も持っています。

 

 

親との接触時間が長く愛情に満たされている子どもは、積極的に遊び(外の世界)に夢中になれる。なぜなら、危険な目に遭ったり疲れたりしても、いつでも帰るところがあるという安心感があるから積極的な行動がおこせるということです。

 

 

児童期の特徴は社会性で、学校が生活の一部になる事が大きな変化をもたらします。幼児期までは家庭、親が中心の生活の中で育ちますが、小学校では学校という集団に入ります。つまり、心理的な特徴としては自分の感情だけで過ごせた時期は終わり、人とのかかわりを持たなければならないという「社会性」が育つ時期になります。

 

 

学校生活では、勉強・運動は時間割で強制的に与えられ、何をするにも集団行動を求められ、その結果は先生や友達から評価されます。否応なしに競争場面に立たされ、上下関係や従属関係などで他の子どもたちを意識しなければならないという社会的、評価的、競争的な状況にいるのです。

 

 

自己中心性が残ってはいますが、徐々に論理的(筋道を立てれる)な思考が出来はじめ、抽象的推理(物事から共通することを見つけ出す)が出来るようになります。

 

 

青年期始めは思春期と呼ばれ、第2次性徴で性への関心が強くなります。自分自身への関心(自我)が高まり、身体の変化も大きくさまざまな面で不安定な時期といえます。青年期後半は「自我の目覚め」があり、自分のことは自分で決めるなど独り立ちした人間としての成長が進んでいきます。

 

 

青年期は客観的な見方も出来るようになり、自分の中で判断が下せるようになります。しかし、まだ自立欲求と自己主張、大人への反抗、自分自身の価値観など、論理の飛躍や過激性が残り主観的な思考に陥りやすい時期でもあります。自分の反抗期前後の心理状態を思い出すと理解しやすくなります。

 

 

■自己概念・運動有能感・運動無力感とは

 

 

次に子どもの心の成長において運動がどのような影響を与えるのでしょうか?それは、「自己概念」(自分がどのような人間であるかというイメージ)の形成に影響を与えるのです。自己概念とは人格の中核にあり、その人の行動を左右するものです。

 

 

つまり幼児や児童は、 自己概念を構成する領域が単純なため、遊びで「できた」とか「やった」という達成・成功経験を積むと、 自分はやればできるという「運動有能感」をもつようになり、 その結果、運動が好きになり協調性も高く行動も積極的になるのです。

 

 

反面、一生懸命やつても上達しない、何時も「負け」たりという経験を繰り返すと、自分はダメだ!という「運動無力感」をもつようになり、 その結果、運動嫌いになるだけではなく劣等感が強くなり、全てにおいて消極的になってしまいます。

 

 

この時期に形成された「運動有能感」「運動無力感」は、成人になってからの運動参加を決定づける大きな要因となります。指導者はこの自己概念が単純な間に、楽しさと達成感を与える練習内容と環境を作ることが運動好きを育てるのです。

 

 

■成績志向的雰囲気・課題志向的雰囲気とは

 

 

最近の研究では成績志向的雰囲気は競技成績に対する精神的な圧迫から、スポーツ活動の離脱を強めています。反対に努力や過程を重視する課題志向的雰囲気では、勝ち負け・上手下手は度外視して努力することと、現在のレベルより少しでも上達することなど、また、負けや失敗は大切な経験として評価されることにより有能感が高まります。成績志向的雰囲気でのスポーツ指導は青年期(思春期後)からで十分だと考えられます。

 

 

指導者は児童期の未だ能力と努力の評価が同じうちに有能感を与え、スポーツを「やる気」のある子どもにさせます。やればできるという自信を植え付けることが大切なのです。具体的には、順位を決めるのではなく、個人の記録更新を目指すような練習を組みます。例えば、ボール突きで回数の多い人が一番ではなく、自分の最高回数をどれくらい超えるかなどの内容にします。

 

 

■内発的動機づけとは
 
 
スポーツを好きとか興味を持たせることが内発的動機づけといわれていますが、内発的動機づけの元になるのが有能感や自己決定感なのです。人格的発達に重要な「運動有能感」の形成と、運動を好きになる「内発的動機づけ」として満足感を与える指導を心がけます。

 

 

最近の心理学では、内発的動機づけられた行動が遊びであるとする考え方が有力です。内発的動機づけが満足される楽しさとは、工夫やチャレンジなど自分の中から出てくるもの、外発的動機づけが満足される楽しみは褒めてもらうやご褒美をもらうなどの人を介することで得られるものなのです。

 

 

■運動発達・基礎的運動パターン・生涯発達・発達の複合性とは
 
 
運動発達について。幼児期に育つのは「筋力」や持久力」よりも、見たものを脳で判断し体に伝えて動かす「運動コントロール能力」です。この能力を幼児期にしっかり 高めておくと、いろな動きに対応できる子供に育ちます。 

 

「運動コントロール能力」の発達は、基礎的運動パターンの習得になります。

 

基礎運動パターン3つの構成とは

 

@姿勢制御運動
 たつ・ねる・すわる・まわる・ころがる・ぶらさがる・からだをふる・バランスをとるなど
A移動運動
 あるく・はしる・とぶ・はう・すべる・のぼる・はいる・よける・はねる・スキップするなど
B操作運動
 うつ・ける・なげる・うける・まわす・ふる・ひく・はこぶ・こぐ・おす・ころがすなど

 

人間は80を超える基礎運動パターンを持っていますが、6〜7歳ごろまでにすべてのパターンを習得します。つまり、児童期の始まりには精度・強度は良くないですが、大人と同じ運動コントロール能力をもっているのです。

 

 

この時期に大切なのは多様性(変化のある動き)のある運動を行うことです。同じ運動を行った場合より学習効果が高く、これは「多様性練習効果」と呼ばれるものです。発達初期には神経のネットワークも増えているので、運動だけでなく知覚や知的な発達も多様性練習効果がみられることは共通理解するところです。
 
 
■発達について
 
 
これまでの伝統的な発達の捉え方とは、出生後、年齢に沿って進歩向上したものが老化によって行動や機能面が衰退する量的変化(身長や体重、脳細胞など)を指していました。しかし、現在は「生涯発達」という考え方に変わってきました。中高年からでも向上上達する進歩的変化が見られ、発達の進歩や衰退は一生を通じてどの時期からでも起こり得ることが分かってきました。これを「発達の複合性」と呼びます。
 
量的変化を発達と考える伝統的な発達観に対して、生涯発達は発達の本質を複合性から生じる質的変化(語彙力や対処能力など)と捉えています。量的変化は発達のごく一部にすぎないということです。

 

 

これらのことから、「子どもは大人のミニチュアではない」「子どもは能力の低い大人ではない」ということが分かります。量的変化はある時期に集中して起こる一部の発達でしかなく、質的変化はさまざまな時期に発生・向上・衰退を繰り返しながら、次の成長の土台作りや蓄積を行っているのです。子どもの時期には子どもの時期にしか発生しない成長や過程があり、指導者はそれらを見極めた指導法をつくり環境を整えることが重要なのです。

 

 

 

 

 

@ 「発達」とは
心理学・教育学の言葉としての発達とは、「個人が時間経過に伴ってその身体的・精神的機能を変えていく過程であり,成長と学習を要因として展開される」(広辞苑)ことを意味する。この定義より、発達は年齢と学習の相互作用によって起る現象といえる。

 

 

A 発達はすべての人に起こる現象
発達の速度や様相は,個人の生育環境、時代、個人の持つ条件や特性によって異なり得るが、すべての人は発達する。

 

 

B 発達は生涯続く過程
現在の発達心理学では、発達とは、受胎から死に至るまでの心身の形態や機能の成長・変化を意味する。発達は一時期の出来事ではない。生涯にわたる時間的流れを背景としている。したがって、人間は生涯発達しつづけるという、生涯発達の考え方にもとづいて、それぞれの発達の段階の意味を理解する。
「過程」とは時間的経過だけを意味するのではない。「過程」とは目標に向かって「前進する」という意味を含んでいる。生涯発達心理学において仮定する生涯目標とは、一人一人の自己実現である。自己実現とは一生涯かけて人が目指す課題である。

 

 

C 発達は成長(獲得)と喪失(衰退)とが結びついて起こる過程
発達は獲得と喪失のダイナミックな過程である。獲得・成長のみに見える幼児期や児童期も、実は喪失の側面を持つ。成育環境や個人の持つ条件や特性に対応して発達させられる特徴があると同時に、その他の方向性や可能性は喪失する。その意味で、各段階も目標を設定する意味があり、たとえば、成長段階では多様な経験が子供の可能性を伸ばすための重要な教育的機能となる。

 

 

D  発達には漸次性があると同時に、連続的(蓄積的)な側面と不連続(革新的)な側面
の両方が機能して起る過程
発達には、単純な内容から複雑な内容へ、具体的な対象から抽象的な対象へ、概念的レベルの低いものから高いものへ、という方向で、連続的に進行・蓄積され,徐々に変化する側面がある一方で、連続性のない革新的な変化も起こり,その両者が機能して発達は促進される。

 

 

E 発達は個人内では可変性がある
個人の生活条件と経験することがらの内容、接する人や情報によって、個人の発達の仕方や道筋は様々な形態を取り得る。したがって、例えば学校段階や学年としての目標は同じであっても、その目標に達する道筋や行動は個々人で異なり得るので、支援の過程では個々人に注目することが重要となる。

 

 

F 発達は社会的環境との相互作用の中で起こる
個人の発達は、歴史的、文化的、社会的条件によってきわめて多様であり得る。したがって、どのようにして個人の発達が進むかは、社会的・文化的環境条件とその後の変化・推移によって著しく影響を受ける。その意味でキャリア教育の実践においては、児童生徒の成育環境とその社会の将来像に対して強い関心を向けながら、今すべきことを決める必要がある。

 

参考資料:文部科学省  キャリア発達にかかわる諸能力の育成に関する調査研究報告書 第5章第1節

 


HOME はじめに お問い合わせ プロフィール