発育発達期のプログラムの知識

 

 

ジュニア指導にはある程度のルールがあります。そのルールとは「心身の発育発達に合わせたもの」といえます。それを取り入れ考慮したプログラムにより吸収力が上がったり、弊害を起こさず成長できるからです。「子どもは大人のミニチュアではない」というのも、この発育発達期だけに起こるさまざまな変化に対応しなければならないからです。

 

 

当然、トレーニングプログラムも成長に合わせて作り上げなければなりません。また、成長は個人差や性差もあるので、プログラムには系統性を持たせておくことも必要です。大人は意思を推進力にして思考、行動をおこしますが、子どもは情動(本能)を推進力にしています。

 

 

■一貫指導の重要性とは

 

 

「子供の成長とともに、指導内容に対して一本の軸が貫き通されていること」この軸のことを一貫指導と呼びます。日本のスポーツは学校が中心で行われてきました。学校スポーツでは進学するたびに指導者が変わるので一貫指導はできないと言われています。

 

 

日本の学校では小学校・中学校・高校と区切られていますので、発育発達期に沿っているわけではないのです。ヨーロッパなどのクラブスポーツでは、年齢区分によって指導者が用意されているので、発育発達期の指導内容に一貫性があるのです。

 

 

世界的なスポーツでは発育発達を考慮して年齢別のカテゴリーで試合などは行われています。ただ、日本の学校制度の中では、たとえ世界大会に選抜されても学校を優先し、インターハイ出場を選ぶ競技や学校があります。学校の諸事情を考えると仕方なのかもしれませんが、選手の成長やレベルアップには残念なことです。

 

 

年齢に応じた育成について、指導者は選手が夢を持てるようなスポーツになるように、目標をつくります。スポーツが成長するには技術・戦術・体力・心理面がありますが、この4つの要素を年齢段階を考えて部分的な目標を設定します。それを長期的な視野を持って少しずつ習得しレベルアップを図っていきます。

 

 

競技力をバランスよく上達させるには、心技体などの成長する時間、部分的目標やトレーニングの一貫性などをひとつのまとまりとして捉えながら指導しなければなりません。ここで注意することは、目標に沿っているか、選手の発達段階に対応しているかを確認して進めることです。

 

 

■発育発達に応じた指導とは

 

 

なぜ、子どもの成長過程(発育発達)に応じたトレーニング(練習)が必要なのか?それは、その内容が「吸収しやすい時期」、「吸収しにくい時期」「成長するもの」、「成長しないもの」になるからです。ジュニア指導者を目指す人は、ここの勉強が原点と言っても過言ではありません。

 

 

テニスで例えると、U12、U14では勝てていた選手がU16、U18では勝てなくなるケースはよくあります。U12、U14では技術が相手より上回っていても、同年代の体格がよくパワーやスタミナのある選手に負けることがあります。その年代ではコート1面をカバーできる体力がまだ備わっていません。

 

 

体格の個人差が大きい時期では、技術<パワー・スタミナという構図があるといえます。ところが、U16頃から上手くトレーニングを積んだ選手たちは体格差がなくなってくると技術や戦術の力が大きくなり逆転現象がおきます。

 

 

このような例は、どのスポーツにでも見られます。決して勝つことが悪い事ではないのですが、勝ちにこだわり過ぎるとせっかく多種多様な技術面が吸収しやすい時期に体力面を鍛える反復トレーニングばかりやらせてしまいます。結果、16歳頃に体力面で追いつかれた段階では、12、14歳頃の技術を吸収しやすい時期にたくさん技術トレーニングしてきた選手に勝てなくなることは容易に想像できることです。

 

 

このような指導をなくすことが一貫指導のコンセプトや発育発達を学ぶ理由なのです。次の年齢別トレーニングを理解して何を指導すべきか、どのようにプログラムを組んでいくかを考えていきます。この時期のトレーニングや練習の指導を誤れば、スポーツに興味をなくしたり大成する土台を失うことにもつながるのです。

 

 

(1)プレゴールデンエイジ(5・6〜8・9歳頃)
神経回路の配線が急速に進んでいる時期。運動能力の基礎の形成。

 

 

プレ・ゴールデンエイジでは一生の中で一度だけ訪れる神経系の著しい発達が見られる時期で、目的に合わない動きをしてしまう「運動浪費」や余分な動きをしてしまう「随伴動作」、動いていないと気がすまない状態の「運動衝動」などもこの年齢段階の特徴です。

 

 

この時期は多種多様なトレーニングが好ましく、次の段階で専門的に学ぶ際の対応能力に影響します。また手拍子などでリズムに合わせる動きを取り入れる事で、複雑な動きを修得するさいの基礎にもなります。また、集中力が長続きしない興味が移りやすい時期でもあるので、多種多様なトレーニングメニューを用意することは、子供たちを飽きさせない効果もあるのです。

 

 

トレーニングメニューとしては「鬼ごっこ、水泳、ボール遊び、マット運動、ドッジボール、木登り、縄跳び」などが効果的という調査結果もあります。テニスのような対人スポーツではドッジボール、ミニサッカーなどを取り入れているところもあります。

 

 

(2)ゴールデンエイジ(9〜12歳頃)
神経系の発達がほぼ完成に近づき、形成的にもやや安定した時期。

 

 

動きの巧みさを身につける最適なこの時期は一生に一度だけ訪れる、あらゆる物事を短時間で覚えることのできる「即座の習得」を備えた時期です。また、精神面でも自我の芽生えとともに、競争心が旺盛になってくる時期でもあります。

 

 

ゴールデンエイジでは「運動浪費」や「運動衝動」が消えて行き、全身を巧みにコントロールできるようになってきます。そして、最大の特徴は何度か見ただけで直ぐにやれてしまう「即座の修得」と言う特徴が現れます。ですが、プレ・ゴールデンエイジの段階で基本的動作が修得されていることが前提になります。この時期に覚えた動きは一生忘れる事がないと言われています。

 

 

トレーニングメニューとしては「クロストレーニング」(専門以外のスポーツを行う)が必要です。陸上競技指導者の調査では野球、バスケットボール、バレーボール、器械運動などをこの時期に経験させることが重要と答えています。また、持久系の機能が発達する時期でもあるので、適性な持続時間でのトレーニングも必要になります。

 

 

(3)ポストゴールデンエイジ(13歳頃以降)
筋肉や骨格が急速に伸び、体のバランスが今までとは異なってくる為に感覚が狂い、習得した技術が一時的にできなくなったり、上達に時間がかかったりする(クラムジー)ことがあります。

 

 

発育発達のスパートを迎えるこの時期は、身体的な発達が急激であることと、動きを理性的に理解しようとするため、「即座の習得」も見られなくなります。従って、この時期は、これまでに獲得した技術を維持することと、その動きの質を高める努力が重要です。

 

 

また、理性的に理解しようとする特徴を生かして、技術や戦略に関する問題に注意を向けさせることも重要であり「考えながら練習する」という習慣づけが重要です。特に、体力面では男性ホルモンの分泌で、筋力、特に速筋繊維の発達が進むので、動きを「より速く」「より強く」といったトレーニングが有効です。

 

 

(4)インディペンデントエイジ(15〜16歳以降)
自立のための準備期。この時期には、精神的にも肉体的にもバランスがとれ、それまで身につけたスポーツの「基本」を土台として、その上に自らの個性を発揮できるようになります。

 

 

発育のスパートが終わり、成人の体型に近づく時期で、特に、短時間にパワーを引き出す能力や無酸素性能力の高まる時期です。トレーニングは、専門的な技術や専門的な体カトレーニングが中心の内容となります。また、性差に応じたトレーニングが始まる時期でもあります。

 

 

トップアスリートを目指す活動はこの年齢頃から始まる競技が多く、体操競技やフィギュアスケートなどは、もう少し早い時期に専門化が始まります。専門化のトレーニングには考えながら練習ができる「良い習慣づけ」を継続させるように、選手とのコミュニケーションを図りながら進めて行きます。

 

 

理論的な説明を理解でき、理性的な発達が認められる時期では、選手と指導者のコミュニケーションが良好であれば、双方から意見を交わしながらトレーニングの質をレベルアップさせることができます。

 

 

■発育状態に応じたトレーニングとは

 

 

これまで年齢に応じたトレーニングを見てきましたが、歴年齢と生物学的年齢と言われる身体の発達に関しては、8歳〜15歳頃までの子どもに関しては±3歳程度の年齢差が生じます。つまり、早熟・晩熟などの現象がおこるこの時期は、指導者にとって正しい判断が求められます。

 

 

早熟の場合は、身体的に発達してしまうと、体力的な面が中心とした動きの習得が行われます。ようするに、年齢以上の強いパワーを発揮してしまうと、細かい動きや柔軟な動きが出来ていなくてもパワーにより隠れてしまいます。身体的に発達しても脳はまだ子どもの状態だという事を忘れず、将来のことを見据えて、ひとつ前に戻っても正しい動きをトレーニングさせるべきです。

 

 

晩熟の場合は、同じ年齢の課題を行っても、じっくりと対応させることが必要です。晩熟な子どもは結果が出にくく、スポーツが嫌いになる傾向があります。ここを乗り越えて成長が追いついた時は一気にスパートすることで、将来的な可能性が高い選手が多くいることを指導者は知っておく必要があります。

 

 

■性差に応じたトレーニングについて
 
 
成長期における男女の発育発達には10歳頃から違いが現れてきます小学生の期間には女子の方が先に成長が進み男子より早く身長が伸びることはよく知られています。テニスやサッカーなどの競技では10歳以下では男女が一緒に参加できるような大会も開催されています。10歳以下では男女差があまり見られないということです。

 

 

成人の男性と女性はスポーツトレーニングを考える際には、原則的には区別して考える必要はないとされていますが、最近の研究ではその考え方では女性アスリートの成長に問題がでると言われています。基本的に問題なのは、身体の成長がPHV年齢から1年以内に月経がはじまることが分かっていますが、指導者には月経に対しての理解不足が挙げられています。

 

 

成長期に女性ホルモンの分泌が活発になると、女性特有の体型に変化していきます。それと同じくして月経も始まり、女性ホルモンの特性でもある骨密度を上げる働きがあります。この初経前後に激しすぎるトレーニングや過激なダイエットなどを行うと無月経になる恐れがあり女性ホルモンの分泌が低下し、骨の形成を妨げることになります。

 

 

男性指導者には「月経随伴症状」を理解するのは難しいですが、女子選手の言動、行動に注意を払い接することが重要です。

 

 

トップアスリートとして大成するためには、幼少の頃からトレーニングを開始し、さらに日々、激しいトレーニングを繰り返さなければなりません。女性スポーツでは、一部競技で容姿が採点に影響を及ぼしたり、また競技種目によっては、競技特性に合わせて体型を獲得・維持するために激しいウェイトコントロールを余儀なくされる場合もあります。

 

 

こうした過度なウェイトコントロールは、摂食障害を引き起こし、女性アスリートの身体に大きなダメージを与えます。摂食障害の行動として、拒食や摂食制限、反動による過食、その後の自己誘発嘔吐等があり、これらの行動により著しい体重・体脂肪の減少を生じることになるのです。

 

 

極端な体脂肪率の減少は、脂肪組織そのものが一部のエストロゲンの生合成の場となっていることから、女性ホルモン量の減少を引き起こします。この現象は、女性が周期的な月経を有するために必要な体脂肪率も極端に減少させることから、無月経を引き起こす原因ともなります。

 

 

さらにエストロゲンの減少は、骨量維持に重要な骨代謝回転に対し悪影響(骨吸収を促進させ、骨形成を低下させる)を及ぼし、骨量減少(骨粗鬆症)が生じ、近年では疲労骨折の大きな発症要因であることが報告されています。(桜庭ほか,2004)。

 

 

上述のとおり、女性の身体・生理的な特徴に関連し、女性アスリートのコンディションや健康管理上の問題点として「女性アスリートの三主徴(Female Athlete Triad、以下FAT)」が挙げられます。

 


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