発育発達期に多いケガや病気の知識

 

 

発育発達期の子どもたちの身体は、とても特徴的な成長をしています。その中の1つに骨端線(成長軟骨)があることです。この軟骨の部分で新しい骨が作られて骨が伸びていきます。つまり、骨端線が残っている間は身長が伸びていきますが、骨端線が消えると身長は止まってしまうのです。また、骨端線は骨の間にある軟骨層なので、ここに強い力が加わるとケガを起こしやすくなるので注意が必要です。

 

 

特徴の2つ目は、骨と筋肉の成長の速さが異なっていることです。骨が活発に成長するとき筋は後から成長してきます。骨のスピードに筋肉や靭帯がついていけないので引っ張られた状態になります。特に膝関節あたりから下肢部が痛くなることがありますが、それは一般的に「成長痛」と呼ばれます。青年期になると逆に筋肉が強くなり骨を引っ張って疲労骨折を起こす場合もあります。
※成長痛の原因には諸説あります。

 

 

3つ目の特徴は成長には個人差が大きいということです。体格の差はこの時期が最も大きくなります。男女での差も、精神面でも違いが出てきます。現場の指導者は1人ひとりのチェックはしているとは思いますが、ここでの観察と指導がケガを減らすポイントなのです。僅かな変化に気が付き、即座に注意、指導ができることが重要です。

 

 

■ジュニア期に多いケガとは

 

 

年少6歳〜10歳:骨折・創傷(切り傷・刺し傷など傷口の開いているきず)・捻挫や打撲
年中11歳〜15歳:骨折・捻挫や打撲・創傷
年長16歳〜20歳:捻挫や打撲・骨折・創傷

 

 

理由としては年少、年中では技術が未熟で転んだり、ボールを取り損なったりすることが多く、まだ骨が柔らかいこともあり骨折や創傷が多くなっています。年長では、筋肉が発達し身体が出来上がると動きが激しくなり、衝突や転倒、ジャンプ着地や切り返しで捻挫や打撲が多いと考えられます。

 
 
■ジュニア期に多いケガの部位とは

 

 

中学生以下:手指(つき指)・足関節(捻挫)
高校生以上:足関節・膝(靱帯損傷)

 

 

身体の伸びる時期が手足から背骨や骨盤などの胴体へと順番になっています。つまり、中学生以下では特に児童期においては手の骨は伸びているが上腕骨はまだ伸びきっていないので、神経回路と筋肉の連携が上手くいきません。その結果、ボールを上手くキャッチできないので、つき指が多いと考えられます。

 

 

■ケガ・スポーツ障害の手当てとは

 

 

@部位別の起こりやすい急性のケガの手当て

 

・首のケガ
手足のマヒ(脱力やしびれ)がなければ首の周りを冷やし、頭の重みが負担になら ないようにします。マヒがある場合は病院で診察を受ける必要があります。特に、足に も力が入らないようならば脊髄損傷の危険があり、無理に動かさず救急車を呼びます。

 

・肩のケガ
肩の脱臼・亜脱臼、鎖骨骨折などは衝突や転倒で発生します。無理して脱臼や変形を治そうとせず現状より悪化させないことを第一目標として、患部を冷やし三角巾で吊って腕の重みを解除し、あとは病院にまかせます。

 

・手首のケガ
手を着いて転倒した場合に手首周辺の骨折が起こります。手首の関節の手前の骨折は低年齢で起こりやすいです。アイシングをしても腫れが強くなり手をつくことができないなら、病院でレントゲン検査を受けさせてください。

 

・指のケガ
突き指は軽視されがちですが、きちんとアイシングをしテーピングや包帯で圧迫することで、ぐらつきのような後遺症を減らせます。一般的に関節を少し曲げて固定します。よく、突き指の時に指を引っ張る人がいる場合は止めてください。悪化の原因です。

 

・大腿部のケガ
大腿部の後ろ側で筋線維が切れるケガを肉離れと呼んでいます。力を抜いてアイシングをし、その後、幅の広い包帯かサポーターで広めに圧迫します。揉んだり伸ばしたりすると筋線維が余計に離れて治りが遅くなります。

 

・膝のケガ
膝に衝突を受けた時や着地で捻った時など、膝の靭帯を痛めることがあります。内側の皮膚直下の靭帯を傷めることが多く、アイシングと幅広の包帯で固定します。関節内側の十字靭帯の損傷では直後に痛みがなく、時間がたって関節内に血が溜まって腫れてきます。病院での診察が必要です。

 

・足関節捻挫
大部分は爪先が内側に入る捻挫で、外くるぶしから斜め前方に走る靭帯を傷めます。アイシング後、包帯やテーピングで固定するのが良い方法です。捻挫を軽視せず、こうした手当てで関節が不安定になるのを防止します。

 

 

A部位別の起こりやすいスポーツ障害の手当て

 

 

・肩の腱板炎
オーバースロー(サーブ・ピッチング・アタックなど)で腕を挙げるときに、肩の中で引っ掛かりや衝突を感じることがあります。これはインナーマッスルと呼ばれる筋の腱が肩の骨と衝突しておこる慢性障害の1つです。オーバースローの動作を休むことが必要ですが、運動前後のストレッチング、運動後のアイシングが重要です。

 

・野球肘
少年野球で問題になるのが野球肘です。投球時の肘にかかる外反ストレスが内側の骨端線を引っ張る損傷(内上顆裂離骨折)と外側の骨端核を圧迫する損傷(上腕骨小頭壊死)を引き起こします。特に外側の小頭部が変形を残し、肘の曲げ伸ばしが出来にくくなる危険性があります。痛みが続く場合は診察を受けさせることです。

 

・腰痛
腰が痛い原因はさまざまですが、腰を反らしたり捻ったりして発生する、腰の骨の ひびです。この場合、反らす動作を制限するコルセットを使い、背筋を柔軟に、腹筋を強くします。筋性の腰痛は最も多く筋疲労で起こるため、ストレッチングと運動量の調節が必要です。

 

・ジャンパー膝
膝のお皿の骨の直下の腱に痛みがあるのは、大部分がこの障害です。疲労による柔軟性の低下が引き金になるので、ストレッチングは重要です。その他、テーピングにより腱の負担を減らすことや運動後のアイシングが大切です。

 

・シンスプリント
すねの骨の下半分の内側に沿って痛みがでる障害です。足首の可動性やふくらはぎの筋疲労が関係するもので、ストレッチングや足首の動きを促す準備運動が必要です。脛の部分で縦に痛みが広いのでアイシングはバケツ氷が効果的です。

 

・オスグッド病
代表的な骨端症のひとつです。大腿四頭筋(太ももの前の筋肉)の力は、膝蓋骨を経由して膝を伸展させる力として働きます。膝を伸ばす力の繰り返しにより、大腿四頭筋が膝蓋腱付着部を介して脛骨結節を牽引するために、脛骨結節の成長線に過剰な負荷がかかり成長軟骨部が剥離することで生じます。症状を強くさせないためには、大腿四頭筋のストレッチングやアイスマッサージなどを行い、痛みが強いときのみ、内服や湿布をします。専用のバンドを使用するのも症状を緩和させます。

 

・シーバー病
小学生の高学年頃に多く発症する踵の痛みは「踵骨骨端症」とも呼ばれます。踵の成長軟骨がアキレス腱と足底腱膜に引っ張られ、そこに衝撃が繰り返されると痛みがでます。ふくらはぎと足底筋のストレッチングが重要です。痛みが強い場合は足底板やヒールカップのような緩衝パッドを使用します。

 

 

B傷の手当てと応急処置

 

 

・傷の汚れを取り除く
まず、傷の汚れを取り除くことが重要です。水道水で構わないので、流しながら砂や土などの異物を洗い流します。傷に食い込んでいる場合はガーゼなどを使って少しこするようにします。時間が経って傷が腫れ、異物が埋まってからでは遅いので、出来るだけ早く取り除くことが大切です。
このような処置をすることで雑菌の侵入を最小限にできます。逆に、すぐにこのような処置をしないと雑菌で感染し、傷が長時間完治しなかったり、膿を持ったり、周囲にも広がったり、と運動にも影響がでます。また、傷自体も変色して痕がはっきり残ってしまいます。

 

・消毒と被覆
傷の様子によって、すり傷なら消毒してガーゼや絆創膏で覆い、裂けた傷で小さければ絆創膏で傷をとじるように寄せます。大きければ可能な範囲で寄せてガーゼなどで覆い、病院で縫ってもらいます。合宿先などで自然の土で大きく傷が汚染された場合には、破傷風などの病原菌の侵入もありうるので必ず病院で診てもらってください。

 

 

D熱中症の予防とその対策

 

 

・環境条件の把握と高温順化
熱中症は高温・高湿の環境で起こります。スポーツ活動中はすくなくとも気温・湿度・風速などを考慮して熱中症発生の危険性を判断します。身体が高温環境に慣れるかどうかも熱中症の危険性が大きく左右します。5月から熱中症が見られ、低年齢期は成人に比べて熱耐性は低いので、注意が必要です。

 

・熱中症予防のための8ヶ条
1.知って防ごう熱中症
2.暑い時、無理な運動は事故のもと
3.急な暑さは要注意
4.失った水と塩分取り戻そう
5.体重で知ろう健康と汗の量
6.薄着ルックでさわやかに
7.体調不良は事故のもと
8.あわてるな、されど急ごう救急処置

 

・水分補給・脱水症
定期的・計画的な水分補給で脱水症を防ぐことは、熱中症の防止にもなります。特にスポーツ活動前にはのどが渇いていなくても必ず水分補給する習慣が必要です。食事を欠いたりして水分が不足していないかも要注意です。水分補給は自由にするよりも飲水量を決めた方が脱水症を防ぎます。ノドが乾いてからまとめて飲むのは遅い上に、ばてる原因となります。

 

・熱中症の重症度
熱中症は「熱疲労」「熱けいれん」「熱射病」に分けられます。熱疲労では、涼しいところで休ませ、水分補給を行えば回復します。熱けいれんは、塩分不足になっているので0.9%程度の食塩水を補給して熱疲労と同じ処置をします。重症と判断する熱射病は医療機関に搬送するのが原則です。
@意識がしっかりしていない
A発汗が停止している
B体温が腋下で39℃以上
とこれらの1つでもあれば熱射病です。

 

 

E寒さ対策

 

 

・寒さと服装、汗の管理
ジュニア期では基礎代謝が高いので、スポーツ活動中は成人よりも薄着で過ごせます。しかし、保温性が低いので体温を奪われると低体温を起こしやすくもあります。寒い環境でのスポーツで汗をかいた場合は、早めに着替えをして汗をとり、活動後は保温をすることが大切です。

 

・風速にも注意
寒い環境では、風力によって体温が奪われ体感温度が下がります。身体表面が濡れていると、気化熱によって体温がさらに奪われます。風の強い時は気温だけで判断せず、十分な保温対策を取りましょう。

 

 

■スポーツで起こりうる内科的障害とは

 

 

・急性呼吸器疾患
呼吸器疾患は通常カゼと呼ばれ、発育発達期では病原体に対して免疫を持っていないため感染症にかかりやすくなっています。カゼ症候群では発熱、鼻水、のどの痛み、咳、関節痛、下痢などの症状がでますが1〜2週間程度で治ります。2〜3日で治った場合は感染症ではなく体調不良にとらえます。

 

 

子どもの場合はカゼ症候群の時に心筋炎を起こしているケースも多く、体調が回復しても体力は消耗しているので、練習などは運動制限を行ってください。

 

 

細菌感染症の場合は溶血性連鎖球菌により咽頭炎、扁桃炎、気管支炎、肺炎などがおこることがあります。黄色や緑のたんが出れば細菌感染症と判断できます。この場合は必ず抗生物質が必要なので病院を受診します。

 

 

処方された抗生物質は症状が良くなってきてもすべて服用させてください。途中でやめてしまうと合併症を引き起こす可能性があるからです。また、抗生物質は2〜3日経っても改善が見られない場合は病院で別の抗生物質に変えてもらうことも必要です。

 

・ぜん息の管理
ぜん息は呼吸する空気の通り道である気道の過敏性と気道が狭くなって呼気が困難になる発作が特徴です。子どものぜん息の90%はアレルギー体質があり、ダニアレルギーがあります。ホコリっぽいところに行くと咳が止まらなかったり、ぜいぜいいい始めるのはダニやホコリのアレルギーのある場合に起こります。多くの子どもは成長に伴って改善していきます。

 

 

運動することによって、乾燥した冷気が気道にはいってきておこすのが運動誘発性ぜん息です。ぜん息が重症であれば、ちょっとした運動でも発作が起きますし、ぜん息の軽い人でも、マラソンのような過酷な運動をすれば発作が起きます。運動環境とすれば水泳などが勧められます。

 

 

呼吸機能を簡単に測定するには、ピークフローといって、思いっきり吹いたときの呼吸のスピード(最大呼気流量)を測定すると、ぜん息の状態がわかります。ピークフローメーターという簡単な器械で測定できます。

 

 

発作が出始めると、自覚する前にこの数値が下がってくるので、ピークフローが下がってきたところで、気管支拡張剤やステロイド吸入を増やすなど、治療を強めると、大きな発作にならずコントロールすることができ、これをピークフローモニタリングといいます。しかし、競技スポーツ参加に関しては、申告や承認が必要になるので、スポーツドクターと相談して下さい。

 

 

・貧血
貧血とは、酸素を供給する働きをもつ血液中の赤血球や、その中に含まれるヘモグロビンという色素が減少し、体全体が酸素不足になる状態をいいます。貧血の原因は多岐にわたりますが、実際にみられる貧血の70%〜95%は鉄欠乏症貧血です。

 

 

よく、立ちくらみなどで貧血とひとくくりにされることがありますが、これは低血圧や心拍数が少ない時に起こる現象です。脳への血液は一時的に不足することから起こるので、脳貧血は血液が薄いわけではありません。

 

 

指導者は、女性アスリートでトレーニングしても筋肉がつかない場合、原因の1つとして鉄欠乏症貧血を疑って下さい。なぜなら筋肉に酸素を運搬するミオグロビンは鉄が無いと作れないからです。また、氷をよく食べている場合などは貧血を疑うことが必要です。氷食症の原因は鉄欠乏症だからです。

 

 

発育発達期も貧血がおこりますが、これは女性特有の生理によって造血が追いつかない時の症状です。発育発達期はフェチリン(貯蔵鉄)が不足しがちになりますので特にヘム鉄を含んだ食品を摂取することが必要です。フェチリンが低下すると精神面や低身長などの身体面にも影響があるという報告もあります。

 

 

鉄欠乏性の貧血になった場合は経口鉄剤を服用します。ヘモグロビンの数値とフェチリン(タンパク質に含まれる貯蔵鉄)の数値を確認しながら服用期間を決めていきます。最低でも半年などと長期にわたりますが数値が回復してもしばらくは注意して下さい。当然、食事に関してはヘム鉄を多く含んだものを摂取していきます。ただし、毎日40r以上摂取すると胃腸(嘔吐、下痢、吐き気)に副作用が起こる可能性があります。

 

 

ヘム鉄とは、肉・魚介類などの動物性の食べ物に含まれています。非ヘム鉄は、野菜・海藻植物性食品に含まれています。この2つの鉄を比べた時に、ヘム鉄の方が非ヘム鉄より5倍ほど体に吸収されやすくなっているのが特徴です。よって、鉄欠乏症貧血の改善にはヘム鉄から積極的にとり入れてください。

 

 

しかし、日々の食事の中で私達がとり入れる機会が多いのはヘム鉄ではなく、非ヘム鉄と言われています。そこで、非ヘム鉄をとり入れる際はビタミンCを一緒にとる事で吸収力が上がります。ビタミンCは、鉄の吸収率を高めてくれる働きがあります。もちろんヘム鉄をとり入れる際もビタミンCを取る事で吸収力がアップします。

 

 

■発育発達期に多いケガや病気について

 

 

・指導者はケガを予防し、基本的な手当ての方法を学び現場で実践出来るようにします。成長には個人差があり、特に骨の発育に特徴が見られ関節周りの障害に関与してきます。6〜15歳では骨折、捻挫が多く、ケガの部位は中学生以下では手・指、高校生以上では、足関節が多いのでケガの部位と手当てについての知識を学びます。内科的障害は指導者だけでは解決は難しく、病院との連携が大切です。


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