テニスのバイオメカニクスの知識と知恵

 

■テニスのバイオメカニクスの知識

 

 

 

 
 
バイオメカ二クスとは生体力学・生物力学などと訳される。身体を効率よく使うことで、パフォーマンスの向上や傷害予防にも役に立つ科学です。
 
 
テニスのバイオメカニクスとは、テニスの様々な知識と、生理学、解剖学、物理学などの基礎知識を統合して、選手の動き、ラケットやボール等の用具の動きを明らかにする学問です。
 
 
■バイオメカニクスが指導現場に貢献できることとは
 
 
@詳細な動きの究明に役立ちます
 
例)肉眼では捉えられないインパクトの現象を知ることができます。
 
例)選手の動き・技術・フォームなどの特徴が分かります。

 
 
A技術の改善・向上に役立ちます
 
例)良い時悪い時のフォームを分析することで、技術の改良すべき欠点が分かります。
 
例)モデルとなるべきプレイヤーとの動きを比較することで、身につけるべき動きが分かる。
 
 
B用具・技術・指導法などの開発に役立ちます
 
例)@Aなどの数値情報に基づいて、選手独自の指導法やトレーニング法を考案できます。
 
例)足部にかかる負荷を知ることで、シューズの開発につなげることができます。
 
 

C傷害予防に役立つ
 
例)身体各部に加わる負荷とその時のフォームを知ることで、ケガを未然に防ぐことができます。
 
 
■バイオメカニクスにおける2つの分析方法とは

 

 

@キネマティクス(運動学)とは

 

キネマティクス的分析は、動作学的分析運動学的分析とも呼ばれています。

 

動きの原因となる力とは無関係に、動き自体を記述する学問の事を指します。例えば、インパクトの関節の角度とか、スイングスピードとかの時間を分析したりと、プレイヤーの動きや技術状態を知るための分析方法です。

 

 

Aキネティクス(運動力学)とは

 

キネティクス的分析は動力学的分析運動力学的分析とも呼ばれています。

 

キネマティクス的分析によって、運動の状態を知ることに加え、さらに、その動きがどのような力によって生み出されているのかを知ることで技術向上に有益となるトレーニングを考案したり、提供したりすることが可能になります。

 

 

■バイオメカニクスから見た動きの観察手順とは

 

 

最も重要なことはインパクトです。インパクトは、ボールの成否を決定し、影響を及ぼすからです。インパクト時点でどのような問題が生じているのかを詳細に観察して分析する必要があります。

 

最大の原因を見つけるためには時系列に遡って観察をすることが技術改善の第一歩になります。インパクトから主要局面、準備局面へとさかのぼっても問題が解決しない場合は1つ前のストローク動作の終末局面まで見る必要があるのです。

 

 

■技術改善の最適化ループとは

 

 

@指導者は、プレイヤーの特性、身につけるべき動きや技術、指導法などに関する知識を準備しておく必要があります。

 

 

A動きや技術を改善する第一歩はプレイヤーを観察することです。目の付け所としては「全体の動きを把握してから部分の動きの観察」「観察手順にしたがってインパクトから時系列に遡って観察」「プレイヤーの前方、側方、後方、頭上など動きが捉えやすい場所から観察」などがあります。

 

 

B動きや技術の観察の情報に基づいて、指導者の持っているイメージやバイオメカニクス的な客観的情報に照らし合わせて動きや技術の比較・評価・診断が求められます。

 

 

Cどの時点に問題が生じているのか、技術の改善・向上を妨げている要因や技術的欠陥は何かなど指導者の経験や知識を総動員して究明することが重要です。

 

技術的な欠点は、1つだけではなく複数生じる場合がある。その場合、何を優先させていかなければならないか優先順位をして慎重に判断することが必要です。

 

 

D優先順位が明らかになれば、必要な練習方法やトレーニング法を選択し、必要に応じて考案してプレイヤーに提供します。

 

 

E選択された練習方法やトレーニング法を実施し、プレイヤーの感覚・気づきを大切にしながら試行錯誤してトレーニングにあたらなければなりません。

 

 

■知っておきたいバイオメカニクスの原理・原則とは

 

 

テニスの打つ動作は大きく分けて@バックスイングAフォアードスイングBコンタクト(インパクト)Cフォロースルーがあり、その4つの動作の中で使うバイオメカ二クスは主に6つあります。
 
 
●バランス
 
バランスとは「動的な・静的な両方の均衡を保つ能力です」テニスとは連続的な動きのスポーツで、動的なバランスを必要とします。見るポイントは、頭と上体を垂直に維持しているかです。
 
 
●慣性の法則
 
慣性の法則とは「外力により動かされるまで、身体は静止しあるいは動いている」言い換えれば、慣性とは動いたり動作を止めたりする身体が行う抵抗のようなものです。
 
 
●反作用力
 
反作用力とはすべての動作に作用と反作用があります。テニスの場合はコートからの反作用が爆発的な最初の動作を与えます。

 
 
●モーメント(運動)
 
モーメントとは身体によって、あるいは「質量×速度」によって作られた力です。テニスでは直線的運動と回転的運動があります。直線的運動には、打つ方向に体重移動することであり、回転的運動はヒップと腰の回転によって作られます。
 
 
●弾力エネルギー
 
弾力エネルギーとは「筋肉を屈伸した結果として、筋肉と腱にエネルギーが蓄えられる」ものです。これはゴムのようなもので、テニスではスプリットステップをして次の動作に移る時に使われます。
 
 
●コーディネーション連鎖(運動連鎖)
 
コーディネーション連鎖とは「鎖の連鎖システムに似た身体の筋肉を順番に動かす動作」である。身体の各セグメントをタイミングよく動かせているかを確認することが重要です。
 

 
○実際に使われているバイオメカニクスの種類
 
 
@バックスイング
 上半身 バランス・慣性の法則
 下半身 バランス・反作用
Aフォアードスイング
 上半身 バランス
 下半身 バランス・反作用
Bコンタクト
 上半身 バランス・コーディネーション連鎖
 下半身 モーメント・弾力エネルギー
     コーディネーション連鎖
Cフォロースルー
 上半身 バランス・モーメント

 下半身 バランス・モーメント
 
 
すべてにバランスが必要なことがこれで分かります。テニス技術においては運動連鎖が最も重要と考えます。最適な身体の使い方が、すなわち効率の良い身体の使い方になるからです。
 
 
コーチの眼からすると、運動連鎖が選手のパワー通りにボールに伝わっていればあとはスイングの調整になります。ところが、どこかの歯車がかみ合っていなければパワーはロスしています。これを的確に見抜く必要があるのです。特に、足首と手首が緩んでいないかチェックすることは重要です。
 
 
下半身から体幹を通り上半身から腕、リストワーク、ラケットへとパワーの伝達の強さや速さが分かりますか?どこかのセグメントが遅れている、もしくはどこかのセグメントのスピードが合っていないなどパワーロスが理解できると選手の欠点がハッキリします。それを、矯正すればテクニック的にはほぼ完成になります。

 

 

運動連鎖が難しいのは下半身から上がってきたパワーを一瞬体幹を止めて、スイングに移すことです。これをボディインパクトといい、その次の瞬間にボールインパクトが来るのです。このタイミングがコーチが理解できると選手の質が変わってきます。

 

 

■ショット別バイオメカニクスとは

 

 

1、サーブ動作のバイオメカニクス…より速いサーブを生み出すためには

 

 

@ラケット速度を高める。

 

 

A多くの関節を動員させる。

 

…サーブ動作に動員される関節の数が多いと、各関節まわりにある筋をより多く利用することになり、ラケットを加速させる距離も増えるので、ラケット速度が高まります。

 

 

B最も力が発揮できる関節角度を使って動作を行う。

 

…肘関節では70?80度の関節角度のときに、大きな力を発揮することは困難と言われています。筋の力を有効に発揮できる関節角度を考えながら指導することが重要です。

 

 

C筋のもつ特性を効果的に引き出すような、ねらいとする方向とは逆の動作を取り入れる。

 

…筋は、大きく引き伸ばされる(伸張性収縮)と、筋や腱にエネルギーが蓄えられ、その後に続く主動作(短縮性収縮)において、大きな力を発揮することができるというバネのような性質を持っています。

 

 

D運動連鎖の生じる動作を行う。

 

…運動連鎖が生じるには(1)末端部分の慣性は中心部よりも小さいこと(2)体幹部分は上肢よりも大きな力を発揮できること、が前提となります。

 

 

…実際には腰→肩→肘→手→ラケットというように、各関節が体幹から上肢へ向けて順序よくタイミングよく加速する「滑らかな動作」が合理的な身体の使い方です。これらの動きを身につけるためには、体幹部にある大きな筋を強化すること、そして全身の動きの調整力トレーニングを行うことが重要です。

 

 

これらのことから、速いサーブを生み出すためには、ラケット速度を高めることが重要であり、そのためには身体各部の関節構造や筋の収縮特性をよく理解し、サーブ動作に必要とされる身体各部を有効に利用すること、ラケットの加速距離を獲得すること、そして、身体各部は、下肢から体幹、体幹から上肢へと順序よく動かすことが重要といえます。

 

 

2、レシーブ動作のバイオメカニクス

 

 

@準備動作とバックスイング開始のタイミング
 
…相手選手のサーブ動作のインパクト前に軽くジャンプをするか抜重(足を浮かして沈み込む動作)を行うこと(以下「事前ジャンプ」)

 

【事前ジャンプの目的】

 

…緩急のあるサーブに対応するために、あらかじめ、筋の緊張度を高めておく(予備緊張)こと、また、筋の伸張?短縮サイクルを利用して、素早い動作を生み出すことにあります。

 

 

A軸足固定のタイミング

 

…緩急のあるサーブに対してみられる振り遅れや打ち急ぎの原因の一つとして、軸足固定のタイミングが考えられます。世界の一流女子選手は、相手選手の打ったボールがサーブコート内にバウンドする直前に軸足を固定しており、セカンドサーブではバウンド後に軸足を固定しています。このことから「軸足固定からリターンインパクトまでのリズムは変えないこと」が重要なポイントです。

 

 

3、ボレー動作のバイオメカニクス

 

 

@準備局面における筋活動

 

…下肢や体幹部(特に左右の脊柱起立筋)の大きな活動がみられます。

 

 

Aバックスイングとフォワードスイング局面における筋活動

 

…左右の外腹斜筋と脊柱起立筋といった体幹部にある筋の大きな活動がみられます。

 

 

Bインパクト時の筋活動

 

…手関節まわりにある撓側手根屈筋と撓側手根伸筋の活動がみられます。この2つの筋は、同時に働くことによって手関節を固定させる働きがあり、ラケット面を安定させます。

 

 

Cグリップを握る強さ

 

…初心者は長い時間グリップを過度に強く握ったままインパクトを迎えているのに対し上級者は、インパクトに集中しラケットを軽く握った程度でボールを打球しています。

 

 

Dグリップを握る強さの調整

 

…相手選手の打球したボールの速度が増せば増すほど、グリップをしっかり握ることによって、手関節を固定し、ラケット面の安定性を図っています。このことから相手からのボールの速度の状況に応じて、グリップの握りの強さを調整する必要があります。

 

 

4、ストローク動作のバイオメカニクス

 

 

@インパクトについて

 

(1) インパクト時間

 

…ボールとラケットの接触時間は、わずか1000分の4〜6秒です。

 

(2) 球種とボールの回転数

 

…スライスでは41.6?47.6回転/秒の逆回転、フラットではほぼ回転なし、トップスピンでは27.1〜35.7回転/秒、ヘビートップスピンでは43.5〜66.6回転/秒を示します。

 

(3) 球種とラケット面の角度

 

…インパクト時の地面に対するラケット面の角度:スライスでは、ラケット面は70度でスイング方向(水平面に対する角度)はー17.5度。フラットの面は85度で、スイング方向は13度。トップスピンの面は90度で、スイング方向は9.5度。ヘビートップスピンの面は92.5度で、スイング方向は50.5度。

 

(4) コースとラケットの向き

 

…打球方向はインパクト時のラケットの向きが重要になり、ベースライン上から各コースへボールを打ち分ける場合に必要とされる角度はコートの規格から、最大で19.1度。

 

(5) コースとインパクト位置

 

…インパクトの位置は、ストレートよりクロスの方が前方(13〜30cm)で捉えています。

 

(6) コースとインパクト直前のラケット速度

 

…コートの規格により、クロス方向の距離は、ストレート方向の距離よりも約1.4m長いため、クロス方向へボールを打つ場合には、より大きなラケット速度を必要とします。

 

 

A並進運動と回転運動について

 

投動作において、回転運動(軸まわりで行われる運動)の要素が大きいと、リリース範囲が狭くなり、タイミングが難しくなります。

 

一方、並進運動(直線的な運動)の要素が大きい場合は、リリース範囲が広くなるので、正確性が要求される運動には、並進的な要素が大きい方が良いとされており、ストローク動作においても、インパクト前後のラケットの振り抜き方について、あてはまる原則といえます。

 

人間が刺激を受けてから動作を生み出すまでにかかる時間は、およそ100分の3秒といわれています。インパクト時間はそれよりも短く、ボールが当たってからは操作ができないので、選手はインパクト前にあらかじめ、どのような回転、方向、高さ、深さ、スピードのボールを打つかを決定し、その目的に応じたラケット面の角度、ラケットの向き、インパクトの位置、スイングスピード、振り抜く方向等を決定しておくイメージ力が重要になります。

 

 

参考資料:テニス指導教本 テニス指導教本T Adovanced Coaches Manual

 

 

■テニスのバイオメカニクスの知恵

 

 

バイオメカニクスはテニス技術の「なぜ」に答えてくれます。テニスコーチとしてテクニックを指導する場合に一番必要なものかもしれません。上手く打てないときはバランスが崩れているか、タイミングがずれている場合がほとんどです。

 

 

そのバイオメカニクスの中でも、サーブとストロークについては運動連鎖(キネチックチェーン・コーディネーション連鎖とも呼ばれます)が大きく係わっています。テニスコーチはこの運動連鎖、足→膝→腰→体幹→肩→肘→手→ラケットの各部分の動きとか、連動のタイミングを見ているのです。

 

 

運動連鎖から見ると、サーブとフォアハンドは同じ連鎖です。あくまでもテクニック的にですが、サーブとフォアハンドでどちらかがが良くてどちらかが悪いことはありません。それは、力の流れ方が同じだからです。スイングが縦か横かの違いだけです。

 

 

テニスコーチの観方で大切なことは、力の流れと強弱を観ることです。運動連鎖がスムーズに出来ているかどうかは、力の出し方や力の大きさなどがコーチの眼から見て合っているかどうかです。まだ、能力の全部を出せていないと感じたならば、運動連鎖のどこかのセグメントが合っていないのです。

 

 

例えば、足を見たときにコートへの踏みつけが弱いと反作用が小さくパワーは低くなります。バランスが悪いと体幹のズレがおこりパワーが肩や腕に行く前に手だけで打って手打ちになりアウトが多くなります。ヒップターンの回転が遅かったり、後ろに残っていたりすることもパワーロスにつながります。

 

 

バイオメカニクスを学習すればコーチのアドバイスが変わります。これまでのような現象にとらわれた短絡的なアドバイスから、インパクトを中心に考えた身体機能からのアプローチが出来るのです。

 

 


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