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■指導プログラムと指導技術の知識

 

 

 

 

 

1.指導の基本的な考え方

 

 

(1)ゲームに基づいた指導法(ゲーム・ベースド・アプローチ)

 

現代の指導における指導者の重要な役割はできるだけ早い時期にプレーヤーにゲーム(サーブ、ラリー、得点)をさせることです。多くのプレーヤーにとって覚えるのが難しく、試合で効果的に使えないような技術を習うよりも試合をさせてボールをたくさん打たせ戦術や技術を身につけさせ試合の方法を学んでいくことが望ましいのです。それによって、生涯にわたってテニスのゲームを楽しむことができるようになります。

 

 

(2)至適挑戦

 

課題や試合が簡単すぎたり難しすぎたりするために、プレーヤーがやる気を失ってしまう場合がある、そのため指導者は、その人にとって最適(至適)な挑戦のレベルを見つけ、計画、提示することが大切です。

 

 

(3)段階的指導法

 

プレーヤーに最適なレベルの課題を提供するために目標を細分化し容易なものから少しずつ難しいものへと系統的、段階的に修正していくこれを段階的指導法(スモールステップ法)といいます。
初心者が、コートでテニスをするというのは大変難しく感じる、なので指導者は課題を修正し難易度を変更できるように準備しなければならなりません。

 

 

(4)難易度の設定方法

 

 

@使用するボールの種類

 

サーブやラリーができない初心者であっても、柔らかいボールを使用することで、ボールが飛んでくる時間が長くなり、技術的にも簡単になるためゲームをすることが可能になります。

 

たとえば、風船やビーチボール、スポンジボールなどがあり一般的にボールの速度が速いほど、大きさは小さいほど難易度がたかくなると考えられます。

 

 

Aコートの大きさとネットの高さ

 

コートの大きさを変えることでも課題に対する難易度を変えることができます。コートが小さくなるとボールを打つときにそれほど力を必要しなくなる、そのためコントロールしたラリーができるようになります。 

 

さらに、ネットが低くなれば、低い打点からでも容易に相手のコートに返球することができます。

 

 

Bラケットの種類(長さ、大きさ)

 

ラケットでボールを打つことは、初心者にとって難しいことです。長さの短いラケットや打球面の広いラケットを使うことで容易にラリーができます。これはラケットを短く持つことで同じ効果をもたらしてくれます。

 

 

Cルールや条件

 

バックハンドの使用を禁止するなど、プレーヤーの動きを増やしたり減らしたり得点方法を変更したり特定のプレーヤーの意欲を高めることができます。また指導者の球出しスピード、回転を変えたりして難易度を変更することができます。

 

 

D協力や競争の要素

 

グループやペアの組み合わせ、競争的な課題と協力的な課題の組み合わせを工夫することで、プレーヤーに成功の体験をもたらすようにすることが重要です。

 

 

(5)指導で用いるプログラム・用具・設備

 

 

@プログラムづくりの基本的視点

 

プログラムは、プレーヤーに習得させたい内容が明確に盛り込まれていなければなりません。つまりテニスというスポーツの分析・解釈を抽出された習得すべき内容は、プレーヤーの視点に立ってプログラムされることが重要です。

 

またプレーヤーの意欲を引き出さないといけないのでプレーヤーの興味や関心に配慮し、能力や発達段階に応じた課題を提示しなければなりません。

 

すべてのプレーヤーに平等な機会を保証するとともに、取り組む課題が挑戦的で、面白さに満ちた課題であることも求められます。

 

 

Aゲーム修正の原理

 

ゲームは初心者や子供にとって難易度も高く複雑である、そこで、初心者や子供の体力や技術に合わせて、コートや用具を工夫することで、それぞれの段階に応じたプレーが可能になります。

 

しかしコートや用具の工夫だけでは戦術の複雑さは解決しません。戦術的問題を解決するためには、ゲームの中で発生することを限定し選択肢を減らしたりたりというようなゲーム修正が必要となります。これらの修正により、初心者や子供に適したゲームを作りだすことができます。

 

 

Bプログラムを有効にする用具及び施設

 

プログラムを有効にする用具及び設備は指導場面で用いられる「モノ」としてだけでなく合理的な運動学習を生み出す補助的・モノ的な場や課題の状況を意味し、以下のような機能があります。

 

△課題の困難度を緩和する

 

△運動の目標や目安を明確にする

 

△空間・方向・位置などを条件づける。

 

△結果の判断を与える

 

△知的理解を促し、イメージを与える

 

△運動課題に対する心理的不安を取り除き、安全性を確保する

 

△運動の機会を増やし、効率を高める

 

指導に際しては既成の概念にとらわれることなく、さまざまな用具の開発と活用を積極的に進めることが必要です。

 

 

(6)指導形態

 

指導形態は、一般に一斉指導、グループ指導、個別指導に分類されます。プレーヤーの特徴や目標に応じ、それぞれの特徴を生かす指導計画の立案と実践が必要です。

 

個人種目のテニスでは、個別指導が可能です。個人差に応じた指導ができ、学習のペースを保証しやすく、技能の習得に適しているという点では個別指導が優れています。

 

その一方能率が悪く、他プレーヤーとの関わりがないため、人間関係スキルなどの社会的領域の学習には適しません。

 

効率という点では、多人数を同時に指導する一斉指導が向いています。しかし、個人差に応じた指導は難しくなるため適正人数を越えないように留意しなければなりません。

 

人数が多い場合には、いくつかの集団に分けてその集団に応じて指導するグループ指導が考えられます。一斉指導の効率の良さを残しつつ、個人差への対応が可能となります。

 

 

2.指導の実践

 

 

指導者の行動は以下の四つに大別できます。この4つを駆使して指導を展開します。

 

 

@ モニタリング(観察)

 

指導者がプレーヤーの様子を見守ることをモニタリングといいます。全体を観察することで、プレーヤーの安全を維持し、個々のプレーヤーを観察することでプレーヤーの課題を見つけることができます。

 

指導者は、必要なときにすぐに働きかけることが出来るように、意欲的に観察することが重要です。
そのためつねにやる気に満ち溢れ常に笑顔を絶やさないように楽しそうでエネルギッシュな態度を示す必要があります。

 

 

A マネジメント(組織・運営力)

 

指導の効果を上げるには実際にプレーしている時間を最大限に確保することにします。具体的には、テニスの環境の整備、移動や待機、練習や試合の進め方についての説明などの時間があります。

 

指導者は可能な限りこれらの時間を減らし運動学習の時間を増やすべきです。そのためにも、プレーヤーの特性に加えて、コート数、人数、ボール数、時間などを考慮し、指導内容や方向を決定し遂行するマネジメント能力が必要となります。

 

 

また、効率よく指導するための適切な指導形態を選択し、指導場面における良いオーガナイザー(まとめ役)となり指導者がプレーヤーに効果的な指示を行うことによりプレーヤー達が自分たちがどのように動き、何を学習するのかを理解することができます。

 

その結果、効率的に動き、常に活動的な動きが可能となります。このように指導者は様々な場面で、多数のプレーヤーを迅速に効率的に編成し管理しなければなりません。

 

 

B 指導者の働きかけ(賞賛、助言、??責などのフィードバックと励まし)

 

指導場面において、指導者は発問、フィードバック、励ましなどの働きかけをします。このような働きかけは、学習行動や学習成果に対して肯定的な影響を及ぼすことが明らかにされています。

 

プレーヤーが求める言葉がけには助言、課題の提示、励ましなどが上位に挙げられています。また指導者は、有効なフィードバックを活用するとともに、指導者に一貫性をもち、すべてのプレーヤーに公平に接することも忘れてはなりません。

 

 

Cインストラクション(直接的指導、デモンストレーションなど)

 

 

1、インストラクションとは

 

学習の提示や課題の意義を伝える活動をインストラクションという。インストラクションの主な目的とは課題を実行する上で何が必要なのか、それに加えて、学習課題のゲームにおける位置づけは明確にすることや学習した内容を整理してまとめ理解を深めさせることです。

 

[インストラクションの技術]

 

△プレーヤーの注目を集め、維持する。

 

△明確で具体的な情報を提供する。

 

△正しい運動モデルの全体像を提示する。

 

△各課題における学習の成果を共有させる。

 

△各学習課題のゲームにおける位置づけを示す。

 

△学習内容を整理し、理解を深めるための発問をする。

 

△プレーヤーが自分で学習を振返り理解を深めるためのノート、資料、記録カードなどを提供する。

 

さらに指導者が指示を与える場合は以下の3つの方法を、対象に応じてバランスよく用いることが必要です。

 

△明確な言葉による説明を行う。

 

△デモンストレーションを見せる。

 

△獲得すべき技術を実際行う機会を与える。

 

 

2、言語による課題の提示

 

課題は、明確で具体的な情報として提示しなければ、正しく伝わりません。そのためには、第一に指導者自身が学習内容をよく理解しておくことが重要です。それにより、説明したりデモンストレーションしたりする上で何が重要で重要でないかをしっかりと把握しておくことが求められます。

 

 

3、デモンストレーション

 

目標となる動きをプレーヤーに提示する際には、口頭の説明だけでなく言葉と情報を同時に提供できるデモンストレーションが重要です。

 

デモンストレーションで気付けること

 

 

[観察させる位置(方向)]

 

観察させたい部分が死角にならないようにします。ボールと動作との対応、フットワークなどは前後から、打点と体の位置確認やスイングと重心移動のようすは左右から確認させるのがいい。観察させたい動作に注目させることが重要です。

 

 

[デモンストレーションのスピード]

 

デモンストレーションは実際の場面にできるだけ(場面、速度)に近づけたほうがよい。しかし初心者は通常のスピードでは重要なポイントをとらえることができない場合が多い。

 

そのため、普通のスピードで行う場合、スローで行う場合、両方を組み合わせておこなう場合の3通りのデモンストレーションが必要です。

 

 

[正しい動作と間違った動作]

 

指導者がプレーヤーの動きを演じ悪いとこと良いところの違いを見せる、またはスマホなどを利用してプレーヤーの動きと目標とする動きを比較して見せるのも効果的です。

 

 

[言語教示]

 

視覚と聴覚を用いることによりいっそうの効果が期待される

 

 

[適当な時間間隔をとって繰り返す]

 

デモンストレーションは繰り返し行い、適当な間隔をとり、プレーヤーに考える時間を与えるようにすればよい。

 

 

[目標のイメージとして見せる]

 

デモンストレーションは、プレーヤーの見本になるものしたがってデモンストレーションをする指導者は自分の個性をとり、技術的な要素だけ見せなければなりません。

 

 

[用具を使ったデモンストレーション]

 

用具を使ったデモンストレーションは技術の具体的なポイントを簡略化して理解させることができるため、プレーヤーに与える影響が大きいのです。

 

 

4、運動感覚的指導

 

運動感覚的指導とは、外部から動作を制限し動作に伴う運動感覚の獲得を目指す方法です。手引き指導に代表される反応強制法と動作の範囲を制限させる物理的制限法があります。

 

反応強制法とは、例えば平泳ぎのキックでは、始めての泳者にはコーチが補助をしますが、あれを反応強制法と呼び、あまり泳者の記憶には残りにくい練習です。

 

物理的強制法とは
コーチの補助なしに自らの動作で行うことを言います。

 

 

5、課題の理解度の確認

 

課題を提示したあと、活動に入る前にプレーヤーが提示した内容を十分に理解しているかの確認を忘れてはなりません。理解度の確認方法としては、重要な情報を思い出させるような質問をするとよい。たとえば(ボールを打つときに気を付けることはなんでしょう)などです。

 

 

Dフィーティング

 

 

ここでは「フィードボール」による練習の注意点を、グランドストロークを中心にいくつか考えていきたいと思います。

 

 

1、テニスコートでの送り手のポジション

 

打球までの時間は「フィードボール」のスピードの調節によってコントロールすることができるのですが、初心者にはボールのバウンド予測は難しく、だいたい小さく見積もりがちなので、初心者にはネットの近くからゆっくりしたスピードのボールを出し、少しずつベースライン方向へ下がっていって、ボールのバウンドの変化を実感させながら練習を進めていきます。

 

 

2、ボールのスピード

 

初心者には打球点(インパクト)の判断が難しいので、初心者にはできるだけゆっくりしたスピードのボールから始め、少しずつスピードボールにしてスピードに慣れさせていきます。

 

 

3、ボールの回転

 

逆回転によりボールが滑ったり逆に戻ったりする予測は、初心者にとって難しいことです。このため、初心者には最初はフラットに近い、やや順回転のかかったボールから始めます。

 

 

4、送球間隔

 

「フィードボール」の送球間隔を短くすれば、フットワークを重視した練習になり、送球間隔を長くすればフォーム重視の練習になります。

 

初心者には送球間隔を長くし、フットワークをやさしくしたフォームづくり中心の練習から始め、慣れてきたら送球間隔を少しずつ短くして、フットワークづくりの要素を増やしていくよう進めます。

 

 

5、送球のバウンド地点

 

初心者にはボールと身体との距離が合わせやすいストレートボールから練習を始め、少しずつクロスのボールに慣れさせていき、サイドへの動きがよくなったら、フットワークが難しくなる短いボールや深いボールの練習へとつなげていきます。

 

 

3.評価

 

 

@指導計画の評価

 

指導が受けたものが求めていたものが指導を通じてどの程度達成されたのか、適切に評価していじできなければならない。テニスをする動機は様々だが、それぞれの欲求にこたえるためにどのような指導計画を立案しどれだけの成果が得られたのか適正な理論モデルに基づいた指導実践の評価を展開できる能力も、我々指導者には求められる。

 

 

A評価の種類と役割

 

評価の種類にはプレーヤーに対する評価、指導そのものの賛否を評価する、
指導に対する評価に分けられる。
両社は密接な関係にあり、いずれの評価もその目的は指導の的確さを図り、指導の改善に役立てることにあります。

 

 

B目標に準処した評価

 

目標に準拠した評価とは,何らかの目標や基準を評価基準とし,目標到達度あるいは基準満足度を評価する評価方法である。各評価段階にあらかじめ人数枠を設けることなく,個々の目標実現状況を評価することから,絶対評価ともいわれる。

 

 

C評価の種類と実施上の留意点

 

評価は、指導後に各学習全体を通して得られた結果を総括する評価だけでなく、指導前の計画作成時にプレーヤーの状態を把握するために行う評価、指導の最中に指導状態を把握するために行う評価のそれぞれを適切に実施する必要がある。

 

 

D評価の視点(観点別評価)

 

指導の目標領域である、認識、社会、情意の各領域についても適切な評価を行うべきである。ここでは領域の評価基準について触れていく。

 

 

1、「社会領域」の評価

 

テニスは個人競技といっても、プレーする相手を始め、多くの人々との関係なしには成り立たない、そこには、ルールだけでなく、マナーやエチケットをといった模範が存在する。準備や後片付け、記録や運営など、さまざまな役割行動について学ぶことも「社会領域」の学習である。

 

社会領域に評価は、活動学習においてどのような行動や態度が期待されるのか、どのような役割を果たすべきなのか、これから達成すべき目標としてプレーヤーに示し、実現度を評価すべきである具体的には「約束事」として明文化してプレーやーに示すべきである。

 

 

2、「認識領域」の評価

 

認識領域とは、テニスの戦術やルールに関する知識、運動やスポーツの科学的知識の領域です。サーブを学習する場合、サーブのイメージがしっかりできていなければ、適切な動作は期待できません。

 

運動技術のポイントが認識されてなければ合理的な運動はできないのです。そのため「認識領域」を評価するにあたって問題の解決方法などを、記述や口述させるなどの工夫が必要です。

 

 

3、「情意領域」の評価

 

簡単に言えば、プレーヤーがテニスをどの程度好きになったかです。主体的・積極的に取り組めたか、テニスが好きか、大切と感じるかなどを主としてプレーヤー自身が評価することです。

 

 

参考資料:テニス指導教本T


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