■テニス指導の留意点の知識
1.指導の手順と留意点
@安全への配慮
実際の指導において、何よりまず優先すべきことは安全への配慮です。あらゆる状況下で考えられる最善の安全策を講じることは必要条件です。
[プレーヤーの体調把握]
参加者の自己申告及び指導者による問診、観察などをおこないます。
[現場の状況]
天気、気温、湿度、風向き及び強度、太陽光などがあります。
[コート上の状態]
コートサーフェスの状態、ネット及びポスト、周辺施設や器具などをチェックします。
[指導中の状況]
プレーヤー周辺のボール、プレーヤー同士の間隔、立ち位置、プレーレベルに応じた練習内容などを気をつけます。
A継続は力なり
テニスの指導に限らず、スポーツでは継続することで上達が見込まれます。つまり、続けてプレーしたいと思えるよう、プレーヤーのテニスへの興味を高めさせることも指導者の役割です。
また、少しずつの進歩や向上を見逃さず、それを必ずプレーヤーに伝えモチベーションを上げプレーしたいという気持ちを喚起させることです。
B指導の目的を明確に
実際に指導では、それぞれの練習課題などの目的を明確にして必ず対象者に伝えなければなりません。ここで重要なことは、適切な難易度の設定をすることです。現レベルより、やや高めの目標を設定することは優秀な指導者にとっては不可欠です。
易しすぎる目標はプレーヤーを飽きさせ、それ以上の向上は難しくなります。また、難しすぎるのはモチベーションを低下させることになるので注意が必要です。
C準備は万全に
実際の指導に先立ち、そのための準備を万全にすることが必要です。指導内容に則した練習内容、ドリルは事前に準備しなければなりません。
しかし、天候やプレーヤーの都合による人数の増減、コート状況などの突然の変更にも対応できる柔軟さも必要です。
また練習中に必要な器具、備品などの状態や数量などの点検も必要です。複数の指導者がいる場合は打ち合わせなど事前の準備を行うことで、現場で何か問題が起きた時もスムーズに対応できます。
D説明は簡潔に
指導内容の説明は確実におこないますが、長すぎるのは良くありません。やったことのある練習の説明は割愛し変更があれば変更点だけを強調します。丁寧に説明することは重要ですが、指導者はいかに短くかつ、過不足なく説明できるかを考える必要があります。
E公平に
プレーヤーが複数いる場合は公平に指導することも配慮が必要です。指導者も人の好き嫌いがあるかもしれませんが、個人的感情から一歩引いた状態から指導することが望まれます。
しかし、適切なアドバイスが時間的に不公平になる場合もあり、その時は他のプレーヤ―にも一言助言することや次回の指導で挽回することで全体的な公平性を保つことができます。
F指導の手順
(1)参加者の状況を把握する。(年齢、性別、健康状態、プレー歴と頻度、スポーツ歴など)
(2)参加者の指導を受ける目的と、参加頻度の把握。
(3)参加者の情報に基づき、事前にプランを立てる。
(4)指導中は常に参加者や周りを観察し安全への配慮をする。
(5)参加者が取り込みやすく楽しい指導内容を心掛ける。
(6)指導の最後には課題に対しての評価を伝え、指導のまとめをする。
2.中高年プレーヤーの指導
近年、中高年プレーヤーは増加傾向にあります。テニス協会が掲げるテニスプレーヤー1000万人計画達成のためには、この年代の初心者・初級者を拡大する事が重要なのです。
ここでは、テニス未経験者を含む中高年世代の指導について留意点を上げていきます。
@安全への配慮
テニス指導において最も重要なことで中高年者に対してはさらに格別の配慮が必要です。特に、初心者、初級者に対しては健康面での有無を確認する必要があります。
また、テニスでは急激な動作や突然の方向転換など、また炎天下や寒冷地でのプレーも珍しくないので、医師による承認を得たうえで適切な運動量を維持しながら指導を行うべきです。
さらに、ウォーミングアップも重要です。また、プレー中何か異常があればすぐに休憩させ、場合によっては中断させることも必要です。無理は禁物ということを肝に銘じて指導していきます。
A継続は力なり
適切な運動量と頻度のテニスを継続することも健康指標の改善が見込まれます。
基本は60〜90分のテニスを週三回ほど、週一回程度では効果はあまり期待できないとされています。
B社交が重要
継続的にテニスを楽しく行うためには、やはり仲間がいることが重要なのです。指導者はプレーヤー同士のコミュケーターに立ってオフコートでも会話が続くよう、明るい社交家であることが望まれます。
C技術指導偏重は困りもの
初心者・初級者に技術指導は重要ですがそれらに固着するのは良くありません。特に高齢者になれば運動能力に制限があるため技術の習得には時間がかかるのです。
高齢の初心者に対する指導で、プレー自体の楽しみを減少させてはなりません。現時点でやれることを教え、なるべく早くラリーやゲームを楽しめるよう指導する必要があります。
Dテニスマナーやエチケット
テニスには(プレー中にコートを横断しない、ボールを取りに入らない、応援はふさわしい態度で)など独特のマナーがあります。経験者ならわかっていても、初心者には知らないことだらけです。テニスを社交的に楽しむためにも指導者がマナーなどを直接指導することが必要です。
3.ジュニアプレーヤーの指導
テニスでは18歳以下のプレーヤーをジュニアと呼んでいます。ジュニアの指導で最も重要なのは、発達発育状態に合わせて指導を行うことです。
適切な時期に適切なトレーニングを行うことで潜在能力を最大限に引き出すことができるのです。そのうえでそれぞれに合わせた指導内容を構築する必要があります。
@幼児期
この時期は遊びの中で身体活動の楽しさを学ばせるのが重要です。また、集中力の持続も困難なため、指導者は多種多様な動きを取り入れて指導しなければなりません。
さらに、自己主張が芽生え始め、自他の違いが認識できるようになるため公平性にも配慮が必要となります。
[指導内容]
・柔らかく大きなボール遊び。
・ミニハードルやラダ―を使ったジャンプ。
・ミニ平均台にのったバランス遊び。
・スポンジボールやラケットを利用したボール遊び。
A児童期
この時期は神経系が急速に発達するため、色々な身体運動を継続的に行うことが必要です。テニスの反復練習を行うと同時にコーディネーションを高めるトレーニングを重視します。
また、ゲームを通じて健全な競争の中で状況判断やボールコントロールの選択など、プレーヤー自身で考えながらプレーの指導を行えるようにさせていきます。
[指導内容]
・ボールコントロール(方向・距離・高さ・回転・速度)の基礎を習得させます。
・ゲームを頻繁に行い、状況判断をさせます。
・テニス以外のスポーツもおこないます。
B思春期前
小学校高学年ごろから、習得された運動能力によってより高度な技術にもチャレンジできる反面、これまでの運動能力に差がつき始めます。
初級者指導に関しては、児童期の内容を段階的に指導することが望まれます。児童期から引き続き指導するプレーヤーにはさらにゲーム経験を積み技術指導とともに戦術や状況判断のトレーニングを重視します。
また、この時期はそれぞれの意思が強くなるため、指導者の一方的な指導では円滑なコミュニケーションが不十分です。質問の投げかけでも単純な質問じゃなくプレーヤーが自ら考えて答えられるような質問のほうが望ましいです。
[指導内容]
・ボールコントロール(方向・距離・高さ・回転・速度)の精度を習得させます。
・あらゆる状況下での、基礎・応用の反復練習をおこないます。
・試合経験を多く積ませ自分と他人のテニスを比較検討しその後の練習に反映させます。
C思春期
男女の体力差はこのころからあらわれるようになり、同時に男女の違いを意識するころでもあります。さらにプレーヤーの心理状態が不安定になりパフォーマンスやモチベーションの低下にもつながります。
指導者はプレーヤーにカウンセリングなどを行い、問題点の認識や共有、場合によっては専門家の助言も必要になります。指導者は指導内容を的確に表現しながら、真摯な姿勢でプレーヤーに接する必要があります。
[指導内容]
・プレッシャーのかかる状態の試合技術を向上させます。
・大会などに参加して自分のレベルを認識させます。
・発達発育に合わせたトレーニングをおこないます。
・持久力、瞬発力、筋力向上を目的に、個人に見合った負荷のトレーニングをさせます。
D思春期後
この時期は体格や充実期に差しかかろうとしていますが、精神的には未熟な部分が見受けられるため、言葉を使って意思を正確に伝えれないこともよくあります。
また面と向かって本音が言えないこともあるので、問題解決にはまず指導者と本人との意思の共有が望まれます。
信頼関係の構築は時間がかかるため、親とも連携しながら対応します。指導者はプレーヤーの生活面や学業面にも目を向けマネジメントする必要があります。
[指導内容]
・パワーを兼ね備えたテニス技術の習得。
・本格的に筋力・持久力のトレーニングを行う。
・練習試合やトーナメント絵の参加をより多くする。
4.初心者指導の実際
@初心者指導の狙い
テニスの魅力を初心者にうまく伝えれるかどうかは、指導者の資質に大きく左右されます。多くの初心者はラリーが続くことに対して楽しいと感じています。
指導者は「ラリーを続けてゲームを楽しむこと」を短時間で達成できることを目標にした指導を心掛けなければなりません。
テニスを始める際に、最初から上手にラケットにボールに当て、簡単なフォアハンドのラリーができるプレーヤーもいるかもしれませんが、なかなか上手にできないプレーヤーもいます。
運動能力の低い人でもラリーの楽しさを実感でき、テニスのゲームができる喜びを与えることのできる指導者が初心者の指導に望まれます。
Aセルフテニスの指導
(1)セルフテニス
セルフテニスとは一人でボールつきをしたり、ラケットにボールを乗せて前後左右に動いたりしてラケット操作や適切なボールとの距離、ボールの弾み方などの感覚を習得するためにおこなうことです。
(2)二人組セルフテニス
セルフテニスができただけで、ラリーに発展しても多くの人がうまくいきません。まずは、ラリーが続く条件として、同方向を向いてお互いに相手が返球できる易しいボールを継続的に配球する必要があります。一人でおこなうセルフテニスができない場合は一人セルフテニスの復習をさせます。
(3)対面二人組セルフテニス
同方向二人組テニスでラリー練習の基礎を無意識にプレーヤーに浸透させてるので、大きな困難は起こりにくいと思われます。
これは相手打球との距離感やボールタッチ、集中力とチャレンジ精神、パートナーとのチームワークが獲ることができます。
Bフォアハンドとバックハンドは同時進行で指導する。
初心者指導においては第一に、フォアとバックハンドで偏りがないように注意します。得意なフォアハンドの練習だけしていると得意不得意が出てきます。
また、多くの初心者はバックハンドに違和感を覚えます。この時点でそれを放置するとその後の得意不得意につながるのでバランスよく教える必要があるのです。
しかし、時には苦手なショットを積極的に展開させることも場合によっては必要になってきます。
Cミニラリーからミニダブルスへ
[ミニラリー]
ここで初めて通常コートへのミニラリーをさせます。潜在的能力が高ければ前述を割愛してもよいが、重要なことはプレーヤーに適切な目標設定を与えることであり、易しすぎても難しすぎてもいけません。
[ミニダブルス]
使うエリアはサービスラインで強く打たないことを条件にゲームをします。ワンバウンド、もしくはノーバウンドでボールを返球します。強く打ってはいけないので、ここでボールタッチ、簡単なコースの振り分けなどの感覚をつかませます。
2対2でもいいですが複数人数がいる場合3対3やミスした人が抜けていくというようなルールをつけるのも楽しいかもしれません。
Dサーブの指導
ミニダブルスをするには初歩サーブを習得する必要があります。ラケットは短く持たせるが、最初はあまりグリップの固定などせず自由に打たせてみます。
必要に応じて技術指導をおこなうことは重要ですが、最小限にとどめて、ある程度安定してコートに打球できるようにします。(ノーバウンド、ワンバウンドのアンダーサーブでもよい)
Eボレーの指導
二人組を作り片方が下投げのキャッチボールをする。これをトスボレーとも言います。最初からフォアハンドとバックハンドを同時に均等に練習し、発展型としてフォアハンドとバックハンドを交互におこないます。
習得できれば、トスをランダムに行ったりしてもよく、これは、中級者のウォーミングアップにもいいといえます。
個別の技術指導は最低限に抑え、まずはやらせてみて、指導者は全体を巡回しながら簡単な説明で指導するのが望まれます。
Fミニダブルスの指導
基本的には普通のダブルスとルール、配置、動き方は同じです。ただし、コートはサービスエリアのみでおこないます。もちろんプレーヤーの能力に応じてコートを幅広くとったり、ダブルフォルトをなくしたりする方法もあります。
初心者の指導では技術の差をルールの解釈で埋めることが大切です。より多くのプレーヤーが楽しめることが優先されるのでキーワードはプレーレベルの平準化です。
参考資料:テニス指導教本T