■TENNIS P&S指導の実践の知識
1.TENNIS P&Sとは
TENNIS P&Sとは、PLAY「楽しくテニスをして」、STAY「ずっとテニスに留まる」という意味で、テニス人口減少に対応するために、初心者や子供達を対象に国際テニス連盟が作成したレッスンプログラムです。
子供達などのレベルや年齢別にラケット、ボール、コートのサイズを世界基準とし、スムーズにレベルアップさせ早くにゲームを楽しむためのプログラムです。
2.なぜTENNIS P&Sなのか
@国内におけるテニス人口の減少
2012年JTAが実施したテニス人口実態調査では、年に一回以上テニスをする人は約430万人、テニスコートの数は3分の2に減少していることが示されています。
高齢化が進みテニス人口が少なくなっているのは一因ではあるが、テニスを取り巻く社会環境の変化に応じた施策が求められています。
A世界のテニスの環境
アメリカではテニスは「人気スポーツのトップ20」にも入っておらず、オランダでも多くのテニスプレーヤーは増えるが、同じ数の人が同時に辞めていくという状況が指摘されています。
さらにテニスを始めた子供の約35%が楽しくなくてやめてしまうと報告されています。このようなテニス離れに危機感を持ったITFが、対策としてTENNIS P&Sキャンペーンが立ちあげられました。
3. TENNIS P&Sの実際
このプログラムでは、テニスは簡単で楽しいものだと感じてもらえるために、3種類のボール、広さの違うコート、ネットの高さ長さの違うラケットを使用し、ゲームやラリーなど導入段階からゲームに基づいた指導法を実施し、次世代に新しい考え方や指導法を取り入れることを求めています。
@ゲームに基づいたコーチング
指導者の重要な役割は、出来るだけ早い段階でプレーヤーにゲームをさせることです。テニスはオープンスキルであり、プレーヤーはゲームを想定したコーチングを受けることで、必要な技術の習得、状況に応じた技術の選択が可能となります。
初心者は習得した少ない技術の中で状況に対応することによって、上級者は、習得した技術が多く選択肢が増えゲームがより高度になる事によって、テニスの楽しさがより感じることができます。
A試合中の局面と初心者への基本的な戦術指導
TENNIS P&Sはゲーム・ベースド・アプローチの考えに基づいたプログラムです。つまり、指導者はこのプログラムを実践する際には「試合の局面と戦術」について正しく理解して指導することが必要なのです。
[シングルスにおける試合中の局面]
△サーブかリターンを打っている。
△ストロークを打っている。
△アプローチを打っているかネットにいる。あるいは相手のボールに対してパッシングかロブを打っている。
これを3つのゲーム状況という、指導者はこの3つの中で何が達成でき何が出来ていないのか識別します。
テニスは戦術を駆使するゲームである、前述した3つの状況に加えてプレーヤーは異なる5つの基本戦術を使ってポイントを獲得することを目標とします。
[シングルにおける基本的な5つの戦術]
△安定性:相手より多くネットを越し、相手コートにボールを入れ続ける。
△相手を動かす:相手をコートで移動させるようなショットを打つ。
△適切なコートポジションの位置:相手のショットに対して最小限の動きで済むポジショニングにつく。
△自分の強みを生かす:自分が得意とするショットを武器として安定性と正確性を発揮する。
△相手の短所を攻める:相手の短所を攻め、ミスを誘い、多く得点する。
プレーヤーの達成感を得るためには、プレーヤー個々の状況とニーズを3つの状況と5つの戦術を用いて判断し、より楽しくテニスが出来る環境にすることが重要です。
4.tennis 10s
@tennis 10sとは
TENNIS P&Sキャンペーンにおける10歳以下を対象とした指導プログラムです。
Atennis 10sと子供たちの発育段階
tennis 10sは科学的根拠に基づいたプログラムであり、10歳以下の子供たちの発育発達に合わせた、安全で楽しくテニスをするプログラムです。
3種類のボールを使う事で、10歳以下の子供が適切な高さでボールがとらえることができます。それにより、極度に厚いグリップで打つことを防ぎます。
コートを小さくすることで、大人と同じ歩数でコートをカバーできることから、大人と同様の戦術を利用したゲームが可能となります。
また、小さいコートは、相手との距離が短いため素早く動く能力が養われます。
さらに、視機能が発達段階である10歳以下の子どもには、遅くて弾まないボールを使うことで奥行きを認知する深視力を段階的に発達させることが期待されています。
この時期には保護者の役割が重要になります。なぜなら、この時期の子どもたちは保護者の振る舞いに大きく左右されるからです。保護者が試合の勝ち負けにこだわりすぎると、子どもは自分に興味がないと感じてしまい、テニスの楽しさを感じなくなるのです。
tennis 10sにおいて、指導者は保護者に子どもの試合の勝ち負けの評価でなく、目標に向かって努力しベストを尽くすことが重要であること、その他、関係者全員に感謝と敬意を払うことが大切であることを伝え、理解してもらうことが絶対必要なのです。
5.tennis Xpress
@tennis Xpressとは
大人の初心者のためのプログラムです。グリーンボールやオレンジボールを使いサーブ、ラリー、得点をする事であらゆる初心者をサポートしていきます。
テニスとは簡単で、楽しく、ゲームを通じて競い合う楽しみがあり、健康的であり障害のスポーツでもあります。高齢化が著しい日本にとって健康維持の為にスポーツの果たす役割は大きく、長く続けてもらう為にはプレーヤーのニーズを把握しなくてはいけません。
Atennis Xpressとtennis 10sの違い
tennis Xpress tennis 10s
始めるきっかけ 内的な要因・・・自分で決めて始める 外因性・・・親がきっかけ
テニスをする目的 息抜き・気分転換 趣味
運動・フィットネス 友達と一緒に遊びたい
社交性 試合がたくさんしたい
正しい技術を学びたい コーチが好き
運動経験 スポーツ経験少ない スポーツ経験あり
運動能力、発育段階 発育曲線下降 発達曲線上昇
6.TENNIS P&Sの可能性と指導者の役割
@発想の転換
指導者は「それぞれのレッスンで興奮や喜びをもたらすことが出来るエンターテイナーである」これまで多くの指導者は技術に主観を置いているため、〜しなければならないなど、押しつけの指導になっています。
指導者は必要最低限の情報を与え、プレーヤー自身が自由な発想でゲームを行い、達成感や自ら考える喜びを感じるような指導が出来ているのでしょうか。
テニスは技術の会得が目的ではなくゲームを楽しむために技術を獲得します。ゲームとなると勝ち負けにこだわるのではないかと思うかもしれませんが、MATCHではなくGEMEという事を指導者が理解しなければなりません。
テニス指導が管理型から潜在能力を引き出すコーチングへ指導者は発想の転換をしなくてはならないのです。
A少子高齢化社会への対応
TENNIS P&Sは老若男女が同じコート、同じルールでゲームが楽しめ、目的、時間、喜びを家族で共用することによって、家族のきずなを高めたいというニーズは大きいのです。
参加者がイベントで触れたテニスに、生涯に渡りSTAY出来る環境づくりなどに取り組まなければなりません。
TENNIS P&Sはテニス文化の構築を目指すための、テニスの原点に立ち戻るプログラムなのです。
参考資料:テニス指導教本T