■テニスコートでの救急処置の知識
@−救急救命処置(ABC処置)
救急救命処置とは、脳出血や脳梗塞などの脳の急性疾患や、心筋梗塞や不整脈発作などの心臓の急性疾患、また、プールでの溺死など、急に意識消失を伴う「心停止、呼吸停止」などが生じた際に「生命を救うために行う処置」である。心肺蘇生法(C.P.R)とも呼ばれ、ABCからなるっています。AはAirway opened(気道確保)、BはBreathingrestored(人工呼吸)、CはCirculation restored(心臓マッサージ)です。
1.気道確保(Airway opened)
急な呼吸停止に対して、気道を確保して窒息を防ぐ方法です。仰向けに寝かせ、首の付け根にタオルをまとめて入れて、首の前方にある気管と下あごが一直線になるようにします。溺水や嘔吐物があるときは、タオルで口腔内をふいてあげます。嘔吐するときは、首をゆっくり横に向けて、吐物が気道につまらないようにします。
2.人工呼吸(Breathing restored)
呼吸停止している場合に行うもので、現在は「マウス・ツー・マウス(mouth-to-mouth)法」が一般的です。
気道確保したうえで、施術者は患者の頭の横に座り、片手で患者の鼻をつまみ空気が鼻孔から漏れないようにして引き上げ、反対の手で下あごを押さえて患者の口を自分の口でふさぎ、すべての呼気を勢いよく吹き込みます。口を離して息を吸ってから再び口をつけて呼気を吹き込み、一分間に15〜20回行います。
3.心臓マッサージ(Circulation restored)
患者の胸の横に座って、両手を組んで患者の胸骨中央部に当て、勢いよく体重を両手にのせて胸部が3cmくらい陥没する程度に圧迫します。
一分間に60回行います。人工呼吸と同時に行うときは、「心臓マッサージ5回後に呼気吹き込み1回」の割合で続けます。
A−一般的外傷の救急処置(RICE処置)
打撲やねん挫、骨折などの一般的な外相に対し、その場で「症状を悪化させないよう、いい治療効果が得られるよう」な行う「救急的な処置」であり、治療ではありません。一般的な外傷に、応急処置の原則は「RICE療法」で、Rest(安静)、Ice(冷却)、Compression(圧迫)、Elevastion(高挙)の4つの処置の頭文字をとったものです。また、RICE処置とともにFixation(固定)も大切な処置法です。
1.安静(Rest)
どんな小さな外傷でも休ませることが第一です。無理にプレーを続ければ、軽い外傷であっても重症化したり、ほかの部分に損傷を生じることになります。
2.冷却(Icing)
外傷を生じた部分を冷やすことができます。氷水は長時間つけすぎると凍傷を起こすので、一回20分程度を限度として、間欠的に受傷後24〜48時間は連続して冷やすのがよいのです。
冷却することで疼痛感が弱くなり、患部の毛細血管が収縮して内出血や腫脹を予防できます。
3.圧迫(Compression)
患部を中心にして包帯やテープなどで圧迫する方法で、圧迫することで毛細血管からの出血や腫脹を防ぐことができます。
4.高挙(Elevetion)
患部を高く持ち上げることで、心臓への血液の循環をよくして腫脹を防ぐ方法です。
5.固定(Fixation)
患部が動くと痛みや内出血が増加して、捻挫では靭帯の損傷が、骨折では骨のずれが大きくなるので、患部が動かないように固定する方法を用います。
1.包帯、三角巾
2.テープ
軽い固定性があるので、軽い捻挫に用います。
3.副子中程度の捻挫(腫れが強いとき)や骨折や腱断裂の場合などに行います。
B−出血している傷に対する処置
@傷を水道水でよく洗う
10分〜15分かけて傷についた土や砂とともに細菌も洗い流す。
A清潔なガーゼでおさえる
薬局で売られている消毒済みの減菌ガーゼを常に用意しておき、創部に当てて圧迫する。
B傷を圧迫して止血
出血している部分か、傷の心臓側(中枢側)をガーゼの上から指で強く圧迫すれば止血できる(直接圧迫法)
Cすぐに病院へ
小さな傷でも軽視しない。とくに土の中には破傷風菌など命にかかわる細菌も多いので、すぐに病院へ行くことです。
C−代表的な傷害とその救急処置
1.足関節の捻挫
症状と診断
かかと部を握って軽く前方へ引き出してガクッと亜脱臼感ががあれば、おもに外くるぶしの前方(前距ひ靭帯)を損傷してると判断し、またかかと部を内がえしてガクッと亜脱臼感があれば外くるぶしの下部(腫ひ靭帯)などを損傷しています。
外くるぶしそのものが痛い場合は外果骨折を疑い、内くるぶしそのものが痛い場合は内果骨折を疑うが、骨幹部の骨折でないので起立することはできるが、「立てるから骨折していない」と判断するのは危険であす。
捻挫が慢性している場合は、次のことが考えられます。
1.靭帯が伸びたままになって不安定になっている
2.骨や軟骨のかけらがある(離断性軟骨炎)
3.骨どうしがぶつかってとげができている(外骨腫症)
4.関節炎も生じている
救急処置
救急処置としてはRICE処置と固定を行います。軽症であればテープや包帯で、中等症以上で腫脹が強い場合は副子による固定を行い、体重をかけないようにして整形外科を受診します。
予防
コートサーフェスの管理を正しく行い、引っかかったり滑ったりしないようにします。また、ボールも正しく管理し、選手の足元にボールがないように注意します。
シューズの底がすり減ったり、踵が曲がっておさえが弱くなったものは新しいものに換えます。足首部分の長いシューズは慢性的なねん挫の人にはよいが、一般人は足首が硬くなるのであまりすすめられません。
トレーニングとして足首や足の指の筋力強化とストレッチングは大切で、予防だけでなくリハビリテーションとしても役立ちます。
2.膝関節ねんざ
症状と診断
急性のものはひねったり転んだりした瞬間から疼痛や腫脹が強く、膝関節内に血液がたまって血腫になると、膝蓋骨の周辺がブヨブヨしてきます。
@膝じん帯損傷
「膝がぬけるような感じ」、「グラグラと不安定な感じ」がする場合は、不安定性や動揺性があると考え、じん帯損傷を疑います。
膝の内側面が痛く、下腿を外反すると膝で脱きゅう感(不安定性)が生じる場合は、内側側副じん帯損傷を疑います。下腿を前方に引きだすと緩い場合は、前十字じん帯損傷を疑います。
A膝半月損傷
膝に何かがはさまったり引っかかったりするような感じを訴える場合は、半月損傷を疑います。体重をかけてひねると、この半月が大腿骨と脛骨の間にはさまって切れやすいのです。
切れると端が骨の間に引っかかって「コリコリした感じ」が生じ、断端が大きい場合は引っかかったまま膝関節が動かなくなります。これを「かんとん症状」と呼びます。
救急処置
膝じん帯損傷、膝半月損傷ともに、RICE処置と固定を確実に行います。疼痛や腫脹が強い場合は無理に立たせずに、大腿から下腿まで長く段ボールやエアースプリントなどで固定し、体重をかけないようにして整形外科医を受診します。
予防
足関節や膝関節は「下肢の体重を支え、移動する」という機能をもつため、スポーツ活動で障害を生じやすいのです。滑ったり転んだりしないようなコートサーフェスやシューズの管理が予防として大切です。
近年はハードコートが多くなってきており、走ってきて急停止すると、シューズの靴底とコートサーフェスの摩擦が強くなって、シューズがコートに吸い着いた状態になることがあります。足と上体の間にある膝関節や足関節に大きな減速エネルギーが生じ、じん帯損傷を生じます。
ハードコートでは急停止しないで、歩幅を小さくしながら停止するような指導が必要でしょう。体力や筋力の劣る成長期のジュニアや女性などは、とくにこのような配慮も必要です。
3.つき指外傷
つき指とは受傷機転を示す一般名で、科学的にはねん挫、じん帯損傷、骨折、脱きゅう、腱断裂などを含む「指外傷」の総称です。
症状と診断
遠位指節間関節、近位指節間関節、中指指節間関節と呼びます。DIP関節が伸びなくなったものを「槌指変形」と呼び、野球選手に多くみられるため「ベースボール・フィンガー」とも呼ばれています。
救急処置
その場で指を引っぱることは絶対にしません。引くことで、じん帯損傷では完全断裂に、骨折では転位が強くなるのです。
RICE処置と固定を行ったあと、整形外科医を受診してレントゲン検査を受けます。
4.筋けいれん
症状と診断
ふくらはぎの下腿三頭筋に多く起こりやすく、一般的に「こむらがえり」と呼ばれています。
1.過度の発汗
2.高温化での発汗による塩分欠乏
3.過労
4.テーピングやユニフォームがきつい
5.急激な気温や水温の変化
6.十分なウォーミングアップの不足
救急処置
患部を軽くマッサージし、けいれんした部分より遠位の関節を握って、けいれんした部分を伸ばします。少し楽になったらRICE処置をします。
5.筋断裂、腱断裂
肉ばなれは筋挫傷と呼び、重症は筋断裂と呼びます。
症状と診断
筋断裂は受傷時より疼痛が強く、重症では筋の陥落に触れることができます。またべた足では立って歩けるが、つま先立ちや走ることはできなくなります。
救急処置
RICE処置と固定を行います。腫脹や疼痛が強い時は長く広く固定して、体重をかけないようにして整形外科医を受診します。
予防
伸筋と屈筋のバランスのとれた強化と、柔軟性を向上させるストレッチングを常に行います。とくに中高年齢者の競技選手で、使いすぎて腱が硬かったり腱が老化している場合は、ウォーミングアップとクーリングダウンの中で、全身、とくに下肢のストレッチングを十分に行います。
6.熱中症
高温によってひき起こされる障害を総称して「熱中症」と呼び、3つに分けることができます。
1.熱けいれん:発汗による塩分不足によるけいれん
2.熱疲労:大量発汗による脱水ショック
3.熱射病:体熱産出と熱放散のバランスが崩れて熱がこもったもの
症状と診断
1.頭痛、吐き気、目まい、意識障害
2.皮膚が熱くなり、乾く
3.直腸温の上昇
誘因としてはa.高温多湿化でのスポーツに慣れていない、b.体調不良、c.肥満、d.降圧剤、利尿剤、精神安定剤などの服用、e.頑張り屋のプレイヤー、f.プラスチックスーツの着用などがあげられます。
救急処置
1.日陰に入って横になる
2.身体を冷やす
3.頭痛などが続くようなら、すぐに病院で受診する
予防
1.盛夏期、とくに気温32℃、湿度90%以上では屋外での運動は禁止する。
2.スポーツ前、スポーツ中にも十分に水分をとる。
3.暑い時は涼しい服装でプレーする。
4.目まい頭痛などが生じたら、無理をせずにスポーツを中止し、休んで水分を十分にとる。
D−熱中症予防のためのプレー指針
暑熱環境もとではトレーニング効果は上がりにくく、プレーの能力は著しく低下することから、熱中症予防は重要です。
試合前日には水分を大量に飲み、カフェインやアルコールを避けます。
試合中はエンドチェンジのたびに水分を補給し、汗に濡れたシャツをこまめに着替えることが望ましい。
1.熱中症予防8カ条
(財)日本体育協会は熱中症予防の原則を「熱中症予防8カ条」として次のように発表しています。
1.知って防ごう熱中症
2.暑いとき、無理な運動は事故のもと
3.急な暑さは要注意
4.失った水分と塩分を取り戻そう
5.体重で知ろう健康と汗の量
6.薄着ルックでさわやかに
7.体調不良は事故のもと
8.あわてるな、されど急ごう救急処置
2.暑熱環境計=湿球黒球温度(WBGT)
暑熱環境は温度と湿度だけではなく、太陽の輻射熱も影響することから、熱中症予防のために暑熱環境条件の評価は湿球黒球温度(WBGT)の測定が有用です。ハンディ型の湿球黒球温度系を活用して暑熱環境を測定します。
WBGT
31℃以上 運動は原則中止
28〜31℃ 厳重警戒(激しい運動は中止)
25〜28℃ 警戒(積極的に休息)
21〜25℃ 注意(積極的に水分補給)
21℃以下 ほぼ安全(適宜水分補給)
参考資料:テニス指導教本