■テニス選手に多いスポーツ障害とその予防の知識
 

 

 

@−テニス選手に多いスポーツ障害とその種類

 

1.テニス肘

 

テニス選手の肘関節は大きく分けて二つの特徴があります。一つは肘関節が完全に伸びないタイプです。もう一つのタイプは肘関節が逆に曲がる(過伸展)タイプで、女子で年齢の若い選手に多くみられます。

 

@内側型

 

フォアハンドストロークでトップスピンを多用したり、手首の使い方に無理のあるフォームでプレーしていると起きやすく、肘関節が完全に伸びないタイプにみられます。

 

症状

 

?肘の内側にあるでっぱった骨(上腕骨内側上顆)を指でトントンと軽くたたくと痛みます。

 

?握手をして、腕を内側に強くねじる(前腕の回内)と肘の内側に痛みを感じます。

 

?手首を強く反らして肘を伸ばすと肘の内側に痛みが出ます。

 

A外側型

 

バックハンドストロークで、肘関節を曲げた状態からインパクトに向かって肘関節を伸ばすタイミングが悪い場合や、肘関節が伸びっきってからボールをとらえると起こりやすく、フォアハンドストロークでも、ベテラン選手の場合、過使用(オーバーユース)により起こることがあります。

 

症状

 

?肘関節にあるでっぱった骨(上腕骨外側上顆)を、指先で軽くトントンと叩いたり強く圧したりすると痛みます。

 

?肘関節を伸ばして反らせたとき、反対に手首が反らないような力を加えると肘が痛みます。

 

?手の指を人差し指から薬指まで順に一本ずつ反らせて、その指が反らないようにおさえつけて力比べをしたときに肘が痛みます。

 

いずれかあてはまっていたら外側型テニス肘です。

 

2.テニス肩

 

テニス選手の肩はいくつかの特徴を持っています。その一つは肩関節ではなく頚部にあります。

 

腕を真横に上げ(肩関節90度外転)、肘を90度曲げて手のひらを下に向けた状態から指先が天井の方へ向くように肩を回す(外旋)のと、指先が床の方へ向くように肩を回す(内旋)のとでは、指先が天井へ向く方向へ肩を回す方がずっと回しやすく可動域も広くなります。

 

症状

 

1.腕を身体につけて立ち、少しずつ外転していくと、90度を超えるあたりから肩に痛みが出始ます。

 

2.さらに腕を上げていくと、120度くらいで痛みが、最も強く感じられます。

 

3.腕を逆におろしていくときも120度くらいで痛みが強く感じられます。

 

4.肩関節90度外転の状態で、前述の内旋、外旋をさせ、それに抵抗を加えると肩関節に痛みが出ます。

 

3.腰痛

 

一流プレイヤーの中でも、とくに優れた体型の選手の腰は臀部の大きさに特徴があります。ただし、この臀部の大きさは横方向ではなく、後方への大きさを示します。つまり大臀部の大きさはダッシュする能力を示すとともに、腰痛を起こさないためにも重要な働きをしてるのです。

 

@急性腰痛

 

トレーニングや試合を中断し、安静が必要となる腰痛であることが多いです。

 

症状

 

?痛みが強く、身体を前に曲げることができません。

 

?下肢のどこかに痛みやしびれ、または、感覚のない場所があります。

 

?仰向けに寝て膝を伸ばしたまま片方の足を持ち上げていくと途中で腰や大腿の後ろ側に強い痛みが感じられます。以上の症状は急性腰痛の中でも、椎間板ヘルニアなどの重い障害である可能性が高いです。

 

A慢性腰痛

 

練習やトレーニングを一日休むと痛みがなくなるが、常に腰が重くだるく、鈍い痛みを感じます。

 

症状

 

?両足でまっすぐに立った姿勢から身体を前に曲げていくと、途中で痛みが出て指先を床につけることができません。

 

?練習開始時に痛みがあり、しばらく動いていると痛みが分からなくなります。

 

4.膝関節痛

 

テニス選手に見られる膝関節の特徴は、O脚が圧倒的に多いことです。この体型的特徴が膝関節を痛みやすくしています。O脚は大腿が内側に、下腿が外側に膝関節でねじれてつながっていることが原因です。

 

@膝蓋骨(お皿)より上の痛み

 

膝の皿より上で発生する痛みはO脚傾向が強いため、膝関節の曲げ伸ばしを行うときに大腿四頭筋に過度の負担がかかって起こります。

 

A膝蓋骨の中が痛む
 
皿が膝関節へ強く圧迫されて炎症を起こします。皿を指でやや強めに押さえつけた(コンプレッションテスト)だけで痛みが出るようであれば、運動は不可です。

 

皿をただ押すだけでは痛まないが、ねじりながら押しつけたときに(グレイティングテスト)痛む程度であれば、コンディショニングをしながら練習は可能となります。

 

B膝蓋骨の下の痛み

 

成長途中で同様の症状が出ると、脛骨を固定している部位(脛骨粗面)が盛り上がってくる(オスグットシュラッテル氏病)。

 

C膝関節内の痛みや不安定感

 

片足立ちのまま、膝を軽く曲げて上体をゆっくり右や左にひねり、ひねりながら膝を曲げたり伸ばしたりしてみます。

 

これらの動作で痛みが出た場合、膝関節内の組織(例えば半月板など)の損傷が考えられます。

 

ランニングやダッシュ・ストップなどで膝がガクガクしたり、力が抜けてしまう感じがある場合も、膝関節固定装置(十字じん帯、側副じん帯など)の緩みが疑われます。

 

5.テニスレッグ

 

膝関節の後ろ側で、関節より下の内側に痛みの出ることが多いです。

 

症状

 

1.痛みのある部位は軽く腫れている。熱をもっていることは少ない。

 

2.痛みのある部位(ひ腹筋内側頭が多い)に触れると固いしこりがある。(教科書262 図8-7)

 

3.膝を伸ばしてつま先立ちすると痛みを強く感じる。

 

6.脛骨(すねの骨)内側下方の痛み

 

最初は運動している時だけ痛み、ふだんは何ともない状態が続きます。しかし、この状態を放っておくと、普通でも坂道の登り降りや会談での昇降の際に痛みを感じる状態にまで悪化する危険性が強いのです。このような症状はシン・スプリントと呼ばれる障害で、症状が進むと脛骨の疲労骨折へと悪化するので注意を要します。

 

7.足関節ねん挫

 

ねん挫でもとくに多いのは、足の甲がひっくり返って足の裏が内側を向いてしまう内反ねん挫です。

 

重要な試合中にねん挫をして、そのまま試合を続けられるか放棄しなければならないかを見分ける方法は、1.片足(ねん挫した方の足)で立てる。2.立って足首を曲げられる。3.足首を曲げたまま上体をねじれるか。を調べ、この3つが痛まずにできれば、靴下の上からフィギアエイトを巻いて試合続行可能です。

 

8.足部の痛み

 

土踏まずは足の構造の中でも重要なクッションの機能を果たしています。土踏まず(アーチ)は重力に対するクッションとして足にかかる衝撃を吸収し、次にステップを踏み出すための反発力の源となっています。

 

土踏まずの痛みは足の親指の付け根にでたり、踵よりが痛んだり、土踏まずのすぐ上の骨が痛んだりします。放っておくと運動性偏平足や骨折につながるので、その前に十分なコンディショニングが必要です。

 

 

A−おもなテニスの障害とその予防法

 

疲労は休むことによって回復可能な状態で、障害につながるような場合は疲労というより、過労の状態に進んでいることが多いです。少々の時間休んでもなかなか回復がみられないまま練習を続け、最後にけがをするというパターンです。

 

休むというのは、選手以上に指導者にとって恐ろしい言葉であるのです。練習の休息の関係を最大限に引き出せるように指導できるのが最良の指導者であるといえるます。障害を予防するためには、効率のよいトレーニングメニューと積極的な休息が必要になります。

 

1.肩関節の予防

 

@真のウォーミングアップ

 

トレーニングを始める前に、ウォーミングアップの実施を指導しない指導者はいません。選手の身体が温まって、トレーニングの準備ができている状態にすることがウォーミングアップであり、アップでけがをする選手はいません。身体をほぐし、筋を緩やかに伸ばし関節を動かして体温を上げます。

 

ラケットの素振りで肩を痛めることがないようにウォーミングアップと実際のサーブでは使われる筋の強さも力点(力の加わる時間的・空間的位置)も異なっているからで、このことを指導者は知っておくべきです。

 

ゆるやかにボールを打つことも、テニス肩を予防するウォーミングアップとして重要なこと、ここまでをウォーミングアップと考えておく必要があります。肩に限らず、すべての技術練習の中での最初の1〜2分ウォーミングアップとして考えるべきです。

 

A首のトレーニング

 

トレーニング理論の中に「殻竿効果」という理論が述べられています。頚部が確固とした支点の働きをすることによって、肩関節の力強い動きが保証されます。つまり、頚部のトレーニングが安定した力強いサーブの原動力となり、肩の痛みを予防することにも通じているのです。

 

B肩関節筋群のトレーニング

 

肩関節のあらゆる運動に際して、肩甲骨と上腕骨(二の腕)の隙間を一定に保つ働きをもっています。関節裂隙が肩の使いすぎなどで狭くなってくると、肩甲骨と上腕骨頭が近づきすぎて様々な痛みを出す原因となります。

 

したがって、この筋群の特別なトレーニングが必要になるが、この筋群は肩関節の特殊な動きをする筋群であり、トレーニングも特別な運動となります。最終的に選手のレベルで2方向12回を1セットとし、女子で0.5〜1kg、男子で2〜3kgで3セットまで実施できることが望ましい。

 

Cコンディショニング

 

コンディショニングとは選手の心身の「手入れ」のことであり、選手にとって重要な意味を持ちます。

 

とくに肩関節にかんしては

 

1.頚部・肩関節・肘関節のストレッチング

 

2.練習後に肩関節周囲の15分間アイシング、そのあとの温湿布、仕上げのマッサージ

 

3.ポイントをしぼった日常的な筋力トレーニング(頚部・肩部)

 

を行うべきである。最後のコンディショニングが積極的休息の重要な方法です。

 

2.肘関節痛の予防

 

筋力バランスで重要な部位は、肘をまげる筋(上腕二頭筋)と肘をのばす筋(上腕三頭筋)です。肘関節の痛みは、手首の関節を動かす筋や腕をひねる筋の使いすぎによります。これらの筋の始まる部位が肘にあたり、そこを使いすぎることによって痛むので、肘関節痛と呼ばれているのです。

 

練習の手入れは、1.肘関節周囲のアイシング(15分)、2.同部位への温湿布、3.手関節を動かす筋のストレッチングなどが重要です。

 

3.腰痛の予防

 

筋力バランスで重要な筋は、腹直筋と大臀筋です。この二つの筋は、腰椎の前弯(腹側にカーブしている)を緩和する働きをする重要な筋です。

 

腰椎はカーブして骨盤のの上にのっており、腰椎のカーブは骨盤の動きに影響され、カーブが強い体型はすべての腰椎の原因となります。

 

仰向けになって床に寝たとき、自分の手が腰と床の間にスッと入ってしまう選手は、腰椎の前弯が強すぎる持ち主です。

 

そのままの姿勢で、自分の手を床に押しつけるように体に力を入れたとき、身体のどこに力を入れると自分の手が腰で押されるだろうか。

 

上手くできる選手は毎日これを実施します。とくに練習後、この姿勢で一回30秒、三回やっておきます。息を吐きながらゆっくり手を押しつけるとよい。

 

骨盤が動き(骨盤の後方回旋)、腰椎の前弯が緩和されて腰部の筋が引き伸ばされ(ストレッチング)腹筋と臀筋が収縮(アイソメトリックトレーニング)しています。この動きを「腰椎骨盤リズム」と呼び、腰痛予防に大切な要素となります。腰部は下肢な動きのすべての土台として働きます。

 

練習後に痛みのある場合は、15分間アイシング、その後の温湿布、ストレッチングが重要なコンディショニングとなります。ストレッチングは腰背部の筋群と合わせて、大腿四頭筋も忘れないで行います。

 

4.膝関節痛の予防

 

筋力バランスで大切な部位は、大腿部前側の筋(大腿四頭筋)と後側の筋(大腿二頭筋・半腱・半模様筋)です。

 

大腿骨と脛骨がねじれてつながっている選手は、両足で膝を伸ばして立ち、両足のつま先を真っ直ぐ前に向けて平行にし、10cmくらい両足を離して膝をゆっくりと曲げていくと、両膝が近づいてきます(malalignment)

 

筋力と柔軟性、この古くて新しいテーマを選手にきちんと教えることが、指導者の大切な役割です。練習中はシューズの中にソールを入れるか、アーチリフターを使用し、練習後は足底のストレッチングをします。女子選手の場合は、足の親指が外側へ向かないように注意することも必要です。

 

この一連の過程で起こる様々な部位の症状は、各身体部位が全部関連をもって起こるが、ここではとくに足部のアーチのコンディショニングが大切です。

 

 

参考資料:テニス指導教本


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