■発育発達時の体力トレーニングの知識

 

 

 
@−発達と発育

 

保健体育の分野では「発育」を身体の形態的変化、「発達」を身体の機能的な変化と捉えることが一般的です。

 

スキャモンは臓器や器官の発育のパターンを4種類に分類し有名な臓器別発達曲線を示しました。その臓器や器官の発育特徴はリンパ型、神経系、一般型、生殖器型に分けられています。

 

出生時を0%、20歳時を100%として臓器・器官の発育増加量を見た時、身体各部分の発達は同時に進むのではないことがわかります。

 

1.身長の発育

 

体の発育は体の発育段階をもっとも顕著に表す指標といえます。遺伝的要因として影響を与えると考えています。

 

誕生から成人にいたるまでに2回成長期があります。第1発育急進期は誕生から乳児期における体の発育期であり、第2発育急進期は10歳以降から思春期にかけてで、体が子供から大人へと急速な変化を遂げる時期になります。

 

2.体重の発育

 

体重は体の総合的な指標であり、骨格および筋肉、脂肪、内臓などの軟部組織、さらに血液、水分などからだのあらゆる部分に関連を持っています。発育状態の評価だけでなく総合的な健康状態の指標としても重要です。 

 

3.筋と筋パワーの発育・発達

 

筋の発育を筋重量の増加とすると、筋線維が太くなる、長くなる、筋線維数が増えると考えられていますが、筋線維数は成人になるまで変化が少ないといわれています。筋力・筋パワーとも11歳前後の増加は緩やかですが、その後急激は成長をして女子は14歳、男子は15歳で頭打ちとなります。

 

4.神経系の発達

 

脳重量の変化は、スキャモンの発育曲線の神経系に属しています。神経系の発達が運動に表れたものが運動機能の発達です。これには感覚系の発達が欠かせません。

 

感覚には五感といわれる視覚、聴覚、味覚、嗅覚、触覚の他に、平衡感覚、身体の位置感覚、運動に関する深部感覚があります。それらは8〜10歳までに急速に発達し、12〜13歳までにほぼ成人の水準に達します。

 

5.呼吸循環器系の発達

 

呼吸循環器系の中心となる心臓は体重とともに発育しますが平均重量は常に男子が上回っています。肺の発育は年齢によって男女の交差現象があります。

 

呼吸循環器系の能力を示すものとして、最大酸素摂取量があります。PHV年齢の前に比べ、PHV年齢後に急速に発達していることがわかります。10歳以降、この時期にスタミナトレーニングをすると効果的に持久力が増すのです。

 

A−発育・発達に応じたトレーニングのあり方

 

指導者は自分が指導している間にチャンピオンを育成したいという望みがあるのは当然の事です。しかし、日々刻々と変化する選手に対し、指導者が勝利至上主義に傾倒すると、重要な変化を見逃し、その時々に必要なトレーニングを受けられないまま成人してしまいます。特に12歳までの指導およびトレーニングが鍵となるのです。

 

発育期のトレーニングはPHV以前、PHV時期、PHV以後の3つに分けて考えるのが一般的である。身長の年間発育量が最も多いPHV時期以前に動作の習得のピーク年齢、PHVとほぼ同じ時期に粘り強さのピーク、それ以降に力強さのピーク年齢を迎えている。

 

効率的で安全なトレーニング計画にはPHV年齢を把握することが必要である。

 

 

B−各年齢期における体力トレーニング

 

選手育成は長期的な視野で考えなければならないということはもはや定説であるが、実際、どの年齢でどのようなトレーニングをどの程度行わせれば良いか、ということは、指導者にとって難しい課題です。

 

 

C−子供のレジスタンストレーニングとその効果

 

レジスタンストレーニングとは、負荷抵抗を用いたトレーニングの意味で、自体重によるトレーニング、チューブトレーニング、ダンベルトレーニング、マシンやフリーウェイトを使ったトレーニングなど、負荷をかけて行うトレーニングの総称です。

 

1.筋力の強化

 

トレーニングをパフォーマンスの向上に結びづけるためには、トレーニングの特異性の視点から、テニスの動きの特性、すなわち、動きの特徴、動きの速度、あるいは動員される筋肉の収縮タイプなどを把握する必要があります。

 

以前は、思春期前の子どもには、レジスタンストレーニングによる筋力の増加は期待できないとされていましたが、最近の研究では子どもの発育・発達によるもの以上の筋力増加が認められています。

 

しかし、成長期に筋肉増加を期待しすぎてトレーニング過多になると、腱や骨などの柔らかい部分を損傷する恐れがあることも承知しておくことが重要です。

 

2.外傷・障害の予防

 

子供のトレーニングの負荷強度については、自体重または負荷を用いる場合についてもあまり大きな負荷でなく、15回前後×2〜3セットの負荷をスタートとして考えます。

 

ITFの一貫指導では、選手を育成するには長期的な展望を持ち、発育発達に見合ったトレーニングを段階的に指導していかなければならないとしています。

 

D−発育・発達期の性差

 

1.女性の身体的特徴

 

@PHV年齢を男子より早く迎える
A骨盤が横長で円筒形
BX脚になりやすい
C重心が低い
D男性に比べて脂肪が多い

 

2.女性の機能的特徴

 

内性器に、膣、子宮、卵管、卵巣を有し1ヶ月に一度「月経」があります。

 

3.女性の体力と運動能力

 

@筋機能

 

筋肉の性差は14〜15才ころから明らかになっていきます。ただし、筋持久力には性差が認められません。

 

A呼吸器循環器系

 

全身持久力の指標である最大酸素摂取量を、体重あたり男性の75%です。心機能として、血液量は男性の85%であるが心拍数は110%です。

 

4.月経について

 

月経とは1ヶ月の間隔で起こり、限られた日数で自然にとまる子宮内膜からの周期的出血です。月経は卵巣ホルモンによって調節されています。月経出血は子宮内膜の剥離により起こります。

 

@初経の発来

 

初経の発来は思春期少女の性機能発達を示す最も顕著なものです。妊娠、出産という女性固有な機能の準備の始まりです。一定以上の体脂肪は必要であることを選手も指導者も認識した上でコントロールすべきです。

 

A月経異常

 

病的な原因がない場合、初経発来の遅延や継続的に月経がない状態が見られる場合、運動性無月経の可能性がある早期に医者に相談することが必要です。

 

B月経困難症
 
一般的に「生理痛」と呼ばれています。症状としては、腰痛、嘔吐、頭痛、脱力感などで非常に個人の差があります。

 

C月経症候群

 

月経開始3〜10日前くらいから始まる精神的あるいは身体的な症状でイライラ、精神不安をともないます。指導者はこのような症状が選手に現れる可能性を知る事で、動揺することなく対処できるようになります。

 

D月経周期の調節

 

月経期間中や月経前のコンディショニングの悪い時期を避けるために、コンディショニングとして月経周期の調節が必要となる事があります。

 

・月経周期短縮法:予定前に月経が来るようにする
・月経周期延長法:周期を遅らせる

 

5.指導者の役割と注意点

 

女性の体の変化について、指導者を含む男性がその話題に触れる事はタブー視されてきました。しかし体重、体脂肪の変化は女子選手にとって重要であることは前述したとおりです。指導者には正しい知識と準備、そしてコミュニケーションが求められます。

 

 

参考資料:テニス指導教本


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